東日本大震災とこれからの観光

安島博幸立教大学観光学部教授

 3月に発生した東日本大震災は、1000年に一度という稀にみる大規模な地震とそれに伴う津波、さらには福島第一原発の事故により、東北を中心に未曾有の被害をもたらしている。特に、原発事故の影響は日本人の価値観を大きく変え、観光面でもその影響は大きく広がってきている。具体的には、安心や安全により注意が払われるようになり、消費は贅沢さが排除されてより堅実となり、電力不足から企業の休暇が分散されるなど、広範にその影響が現れつつあり、それは現在も進行形である。

 東日本大震災の被害をもっとも大きく受けた観光地は、岩手、宮城の太平洋に面した三陸海岸といわれる地域である。津波の直撃を受けて、この地域の港や町、観光施設・資源は壊滅的な被害が発生したところも多い。

 先般、もっとも町が壊滅的な被害を受けた南三陸町、石巻市などを視察したが、写真などで見てはいたが、現地に立つと、巨大津波のすべてを飲み込んだ破壊力と被災現場の凄惨さに言葉がなかった。

 ただ、今後の地域の復興に向けては、まずは瓦礫の撤去、住宅の確保、港、鉄道などのインフラストラクチャーの復旧が優先されるべきことに疑いはないが、長期にわたる地域の復興にあたっては、観光の果たす役割は小さくないと考えている。
 このような事態を受けて、三陸地域の観光復興をどう進めるべきであるかを考える機会があったので、ここでも簡単に紹介してみたい。※

 まず、前提として三陸地域において観光復興を進めるにあたって考えておくべきことは、次のようなことである。

(1)世界三大漁場と言われる豊かな海と漁業を活かす
(2)個々の観光地や市町村単位ではなく、広範な地域が連携したトータルな復興を目指す
(3)少しずつ始まっていた個人客や教育旅行など、滞在化に向けた最近の取り組みが継続できるように支援する
(4)震災以前に復旧するのではなく、新しい時代の価値観に対応した新しい観光地のモデルを提示する。
 限られたスペースなので結論を急ぐが、検討の結果、以下のように、三陸の復興の目指すべき方向としていくつかの提案をするに至った。

<世界に認知された「三陸」の地名を活かし国際的に通用する質の高いエリアを目指す>
 今回の大震災を転じて、人と人との交流や三陸の生活文化を活かしながら国際的に通用する施設やサービス水準の向上を目指して観光の質の転換を図っていく。

<見るだけの観光ばかりではなく、埋もれている多様な地域資源を活用する>
 漁業や漁村の生活文化、食文化、神楽、民話、奥州藤原氏、製鉄などの潜在的な資源や今回の津波も一つの資源と考えて新たな展開を図る。

<平成の大津波の爪痕を防災教育・研修旅行に活かす>
 三陸地域は、日本有数のリアス式海岸である反面、沖合のプレートの破壊により定期的に大地震と津波が発生する。三陸地域には、津波から身を守り生きていくための知恵があり、それらを日本と世界に向けて発信していくことが世界中から求められている。

<社会資本整備等の復旧・復興の中で「観光」的な要素を取り込む>
 港や漁業関係施設、防災施設、道路、鉄道などの再整備にあたり、観光客を含めた来訪者の景観的な視点や観光的な要素をあらかじめ取り込んで計画する。後から、その視点だけを付け加えるのは効率が悪いからである。

 以上、東日本大震災を受けた三陸地域の観光復興へ向けた基本的な考え方について紹介をさせていただいた。

※『三陸地域の観光復興のあり方について』(東北観光復興研究会)

著者プロフィール

安島博幸

安島博幸立教大学観光学部教授

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