東日本大震災の被災者に寄り添う観光

島川崇東洋大学准教授

2012.02.01岩手県

 あの東日本大震災からはや1年が経とうとしている。
 現地を訪れると、現在もなお復興への道のりが遠く険しいものであることが実感できる。そして、最近では自治体ごとにその復興の進度に差がついてきた。これは現場に行かなければ分からない感覚である。

 現地に赴き、ホンモノを見ること、それこそがわれわれ観光に携わる人間が普段から主張している観光の強みではなかったか。東北支援を謳うツアーは、平泉とか、会津とか、津波の影響がない地域への商品が多いが、被災地を訪れ、被災者に寄り添う観光を打ち出すことを提案したい。被災地を訪問し、被災地を見た観光客から代金をいただき、復興の資金にするのである。そして、被災者が自分の街をガイドすることで、新たな雇用を創造するのである。

 すでにその動きは始まっている。大きく被災した三陸鉄道は震災後わずか数日で無事の区間だけで運転再開したが、全線復活の見通しは立っていない。

 そこで、破壊された橋梁や沿線の被害状況を三陸鉄道社員が自らガイドとなって観光客に見せて説明する「三陸フロントライン観光」を着地型観光の形態で実施している私自身もこの三陸鉄道の取り組みを側面から支援するために、夏休みのゼミ合宿を岩手で行い、所属する日本国際観光学会の活動として、会員を現地に連れて行った。

 参加者は現地の光景を見て、深く考えさせられたと一様に感想を述べている。メディアからの情報で知った気になっていた自分たちが恥ずかしいと皆感じたようだ。アンケートをとったら、復興後に元気になった三陸をまた見に来たいと思う人はもちろん、復興前にもまた来たいという人も多く存在することが判明し、観光によって、被災者との固い絆が結ばれたことが窺える。

 観光は後ろめたい活動ではないはずだ。世の写真家はこぞってこの悲劇を後世に伝えるべく、被災者や被災地を被写体にしている。それに対して、被災者に救いの手を差し伸べずに写真だけ撮っていると批判されることがあるが、写真家は使命感を持って写真を撮り続けることで、その批判などものともしない。この写真家の使命感を観光事業者も見習うべきだ。

 観光立国への一連の動きで観光はかつてより市民権を得た感があるが、まだどこか観光に携わる人々の心に観光に対しての後ろめたさが残っているのが残念だ。関係者は堂々と被災地観光を打ち出して、被災者に寄り添うことができる人をひとりでも多く作っていただきたい。

著者プロフィール

島川崇

島川崇東洋大学准教授

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