訪日外国人観光客の緊急医療 ―求められる、地域の状況に応じた連携構築・体制整備―

岡村世里奈国際医療福祉大学大学院准教授

2018.03.27

DSC_0596訪日外国人客が増える中、急な病気やけがで医療機関を受診する人も増えている(写真は岐阜県高山市内)

医療機関の受け入れ体制整備だけでは解決できない

 近年、訪日外国人観光客の急増に伴い、滞在中に病気やけがで治療が必要となる、つまり緊急に医療を受ける外国人観光客が増えてきている。
 これを受けて、2016年に発表された「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年までに、訪日外国人が多い地域を中心に、外国人患者受け入れ体制が整備された医療機関を100か所整備すること等が掲げられた。現在わが国では、厚生労働省や観光庁を中心として、医療機関の外国人患者受け入れ体制整備や、訪日外国人観光客に対する医療機関情報の提供強化等、数々の関連施策が実施されている。

 確かに、滞在中に病気やけがで治療が必要となった外国人観光客に、安心、安全に日本の医療サービスを受けてもらうためには、外国人患者の受け入れ体制が整備されている医療機関を増やすことが重要であることは間違いない。
 しかし、最近、よく聞かれる外国人観光客の緊急的な医療をめぐるトラブルを見てみると、
①外国人観光客がどの医療機関にかかったらよいか分からなかったり、医療費が心配で悪化してから受診する、
②(特にアジアからの外国人観光客の場合には)大病院志向が強いため、軽症でも大学病院や総合病院の救急外来を受診してかえって長時間待つことになったり、医療機関側も本来対応すべき重症患者への対応が妨げられてしまう、
③海外旅行保険に入っておらず、医療費が支払えない(医療機関側にとっては医療費未払問題となってしまう)、
④特に重症患者の場合には、医療機関が海外旅行保険会社や母国への医療搬送手続等、慣れない雑多な事務処理で疲弊する、
⑤通訳がいないため、コミュニケーションが取れない(特に夜間休日の時間帯やマイナー言語の場合)、
⑥医療文化や医療習慣の違いから診療内容や医療費の支払いをめぐって外国人観光客と医療機関間でトラブルが生じる等、
医療機関の受け入れ体制を整備するだけでは解決できない問題が多々含まれていることがわかる。

 つまり、外国人観光客の緊急医療に対応していくためには、医療機関に委ねるだけでは不十分であり、地域の行政観光関係者医療関係者が互いに手を取り合って、その地域の特徴、例えば外国人観光客の数や国籍、使用言語、疾患の特徴(スキー客が多いため骨折患者が多い、高齢客が多いため循環器系の疾患患者が多い等)、軽症から重症までそれぞれのレベルに応じた外国人患者対応可能医療機関資源、利用可能通訳資源等を踏まえながら、独自の緊急医療体制を整備していくことが重要といえよう。

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