国立公園のブランド化でインバウンド観光を促進 実現に向けて克服すべき課題とは

香坂玲東北大学大学院 環境科学研究科教授

2017.06.19

国立公園のブランド化でインバウンド観光を促進 実現に向けて克服すべき課題とは
大山隠岐国立公園 中国地方最高峰「大山」の登山道 出典:環境省大山隠岐国立公園管理事務所

広がるインバウンド観光客への期待 国立公園でもプロジェクト 

 観光庁が2015年に訪日外国人旅行者を地方へ誘客するモデルケースである「観光立国ショーケース」として、北海道釧路市、石川県金沢市、長崎県長崎市の都市を選んでいることは観光に携わる関係者には比較的知られている。具体的には、ストレスフリーの環境整備、海外への情報発信などを省庁が横断的に集中して実施していくこととしている。

 インバウンド観光客への期待は、市街地の観光地にとどまらず、国立公園にまで広がりを見せている。例えば環境省は、日本を訪れる外国人旅行者、インバウンドを対象に、長期滞在する目的地の創出を目的として「国立公園満喫プロジェクト」を実施している。全国で8カ所が選定されており、具体的に選ばれたのは、阿寒(北海道)、十和田八幡平(青森、岩手、秋田県)、日光(福島、栃木、群馬県)、伊勢志摩(三重県)、大山隠岐(岡山、鳥取、島根県)、阿蘇くじゅう(熊本、大分県)、霧島錦江湾(宮崎、鹿児島県)、慶良間諸島(沖縄県)となっている。北海道から沖縄に至る多様な環境条件の国立公園が選定されている。

 背景には、近隣の自治体の意向などもある。というのも、プロジェクトには当然、日本を代表する国立公園の美しさなどを堪能してもらおうという趣旨があるが、これまでは一部のエリアで限定的にとどまっていた近隣自治体への経済的な波及効果を、観光業を通して実現していこうという効果も期待されている。日本の国立公園は、「国立」とはいえ、近隣住民、近隣自治体などの協力が欠かせない。米国などとシステムが異なり、土地の所有者が国や行政とは限らず、民有地も多くのケースで含まれるからだ。

国立公園のブランド化でインバウンド観光を促進 実現に向けて克服すべき課題とは
大山隠岐国立公園 海面からの高さが257mの「隠岐の摩天崖」 出典:環境省大山隠岐国立公園管理事務所

古典的な課題 保全と利用の両立

 一方で国立公園を観光に活用していくことには、他の場合と異なる特殊な配慮も欠かせない。いわゆる保全と利用という古典的ともいえる問題が先鋭化しやすいからである。

 例えば毎日新聞は社説(2017年5月4日付)で、国立公園のブランド化について議論している。観光ツアー開発や、ホテル誘致、多言語対応等が計画されているなかで、活用と保護を両立するための適切なモニタリング体制の整備が重要である点が指摘されている。

 また、活用と保護を進めるための財源確保は課題であるが、財源を確保する一つの方法として、沖縄県渡嘉敷村等で導入されている環境協力税を紹介している。入島する際に支払う形式の環境協力税は、近隣の座間味村でも導入する動きがあり、少しずつ広がりをみせている。他方で、公園の保護に関わる環境省の自然保護官が不足している等人材面での課題もある。抱える課題は山積しているが、外国人によって魅力が見出された地域として軽井沢、上高地を例に、今回のブランド化が国立公園の魅力の再発見につながることに期待が寄せられている。

保護と活用の両立には、保護すべき区域と観光に活用する区域を明確に分けることが欠かせない。自然への影響を適切にモニタリングする体制を整えておくことも大事だ。
渡嘉敷村と座間味村の2村にまたがる「慶良間諸島」では、渡嘉敷村が観光客から環境協力税を徴収し、自然環境の保全にあててきた。(引用:毎日新聞刊 2017年5月4日)

 国立公園の魅力は当然ながらそこにみられる個々の生物等の自然環境を基礎としているが、それら個々の生物は、地域の生態系を構成し、生物多様性を涵養(かんよう)し、そこでの人々の営みとも関わる。自然保護の役割がやや強調されてきた国立公園では、地域の社会・歴史を含む全体的な生態系の成り立ちについて発信するというよりは、そこに生息する個々の生物についての詳細な知識を提供することを得意としている面がある。2017年3月に刊行された、国立公園の80年を振り返る「国立公園論」(国立公園研究会・自然公園財団編 2017)においては、今後の国立公園の運営において、社会・文化的側面の考慮、国土の俯瞰的視点からの位置づけ、地域づくりにおける活用等が議論されている。

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