外国人観光客にわかりやすいサイン ピクトグラムの使い方

本田弘之北陸先端科学技術大学院大学教授

2018.01.19

ピクトグラムの使い方

 いうまでもなくピクトグラムは、日本でもよく使われています。日本で本格的にピクトグラムが使われるようになったのは、1964年の東京オリンピックから、ということなので、すでに50年以上使われていることになります。ところが、日本では、世界標準とは異なる奇妙なピクトグラムの使い方が非常に多く見られます。

 それは、ピクトグラムと文字(言語)の併記です。特に最近は、ピクトグラムに標準4言語を併記した例がいたるところに見られるようになりました。【写真2】は羽田空港、【写真3】はストックホルム空港ですが、こうして比べるとその奇妙さがよくわかると思います。ピクトグラムは「ことば」であり、それ一つだけですべての人に通用するのですから、他の「ことば」と併用する必要はありません。

羽田空港のサイン
【写真2】文字を併用した羽田空港のサイン

ストックホルム空港のサインはピクトグラムだけ
【写真3】ストックホルム空港のサインはピクトグラムだけ

 ヨーロッパでもピクトグラムに文字を併記する場合があります。それは地名などの「固有名詞」を表示する場合です。あたりまえのことですが、固有名詞の音(発音)はピクトグラムにならないからです。【写真4】は、コペンハーゲンの街角のサインです。歩行者のピクトグラムと人魚姫のシルエット(この人魚姫のシルエットを「ピクトグラム」といってよいかどうかは微妙ですが)で、コペンハーゲンを訪問する観光客なら、誰にでも理解できる誘導サインになっています。「Den lille Havfrue(『小さな人魚』:童話の題名) Langelinikaj(地名)」と二つの固有名詞が添えられていますが、それが読めなくても、このサインは十分に役に立ちます。このように、ピクトグラムは、ピクトグラムだけ、あるいはピクトグラムに固有名詞(だけ)を添えて掲示するのが原則なのです。

コペンハーゲンの街角のサイン。人魚のピクトグラムに2つの固有名詞のみ。ピクトグラムは、ピクトグラムのみか固有名詞だけを添えて提示するのが原則
【写真4】コペンハーゲンの街角のサイン。人魚のピクトグラムに2つの固有名詞のみ。ピクトグラムは、ピクトグラムのみか固有名詞だけを添えて提示するのが原則

 しかし、日本では、【写真2】に見られるようにピクトグラムと文字の併記が広く見られます。このような習慣は、ピクトグラムを役に立たないものにしてしまう危険を招いています。つまり「文字を使わずに伝える」というピクトグラム本来の意味を忘れてしまい、ピクトグラムがついているのにかかわらず、併記された文字の説明が読めなければ、まったく意味がわからない、というサインになってしまっていることが日本ではよく見られるのです。

 羽田空港国際線ロビーで撮影した【写真5、6、7】がそんな例です。「バス」に関係あるから、ということで「バス」のピクトグラムを使ったのでしょうが、それぞれのサインが、なにを表しているのかは、文字(標準4言語)が理解できない人にはまったくわからないサインになってしまいました。

羽田空港バスチケット売り場のサイン
【写真5】羽田空港バスチケット売り場のサイン

羽田空港 乗り場のサイン
【写真6】羽田空港 乗り場のサイン

羽田空港シャトルバス乗り場のサイン
【写真7】羽田空港シャトルバス乗り場のサイン

 このようにピクトグラムをイラスト(挿絵)の代わりに使ってしまう、という習慣は日本独特のものです。そして、それが外国人をとまどわせ、「ことばの壁」をさらに高くしてしまうものであることはいうまでもないと思います。

 ピクトグラムは、世界共通の「文字」なのです。サインをピクトグラムに「翻訳」した際は、ピクトグラムだけで意味が通じるようなサインにしなければならないのです。

(了)

<参考文献>
本田弘之・岩田一成・倉林秀男著『街のサインを点検する –外国人にはどう見えるか–』2017年 大修館書店

*写真はすべて著者の撮影によるものです。なお、写真1については上記『街のサインを点検する』から転載しました。

著者プロフィール

本田弘之

本田弘之北陸先端科学技術大学院大学教授

北海道出身。青年海外協力隊に参加して日本語教育の世界に入る。早稲田大学大学院日本語教育研究科修了。専門は、日本語教育学・社会言語学・異文化間コミュニケーション。文字を使ったコミュニケーションに興味を持ち、社会言語学の視点からサインシステムなどを調査・研究している。著書に『日本語教育学の歩き方』(共著2014)『日本語教材研究の視点』(共編著2016)などがある。

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