サイクルツーリズムでしまなみ海道の活性化を目指すシクロツーリズムしまなみ
住民の協力が県や自治体を超えた取り組みに発展
宇都宮一成さん
まずはサイクリストが訪れたくなるしまなみ海道にするため、全国約3,000人のモニターに実施したウェブアンケートをもとに、ニーズが高かったものから整備に取り組んだ。しまなみ海道の島々を楽しむための自転車専用マップ「しまなみ島走Map」の製作、気軽に立ち寄り休憩ができる「しまなみサイクルオアシス」、自転車のパンクやトラブルの時に対応してくれる「しまなみ島走レスキュー」など多岐にわたる。
こうした一連の取り組みの中心となる人物が、タンデム自転車で10年かけて世界一周の旅をした西予市出身の宇都宮一成(うつのみや・かずなり)さんである。
山本:私たちの活動に関わってくれるサイクリストを探していたときに、知り合いを通じて紹介してもらったのが宇都宮さんでした。自転車でまちづくりをしたいという気持ちを伝えると、宇都宮さんは大好きな自転車で地元に恩返しができるならと、活動に参加してくれることになったんです。
さっそく山本さんは、サイクリストがなぜ普通のマップではなく自転車専用マップを求めるのかについて宇都宮さんに相談した。
山本:サイクリストは、簡単に言えば車があまり通らないところ、つまり国道から一本入った旧道や農道を好み、そうしたルートをなるべく使って旅をしようと、事前にマップを見て計画を立てるそうなんです。普通のマップでは幹線道路が中心で計画が立てにくいため、サイクリスト目線のマップをつくる必要があるのです。
そこで宇都宮さんにしまなみ海道にある全島の道を自転車で実走してもらい、見どころや飲食店などを調査して、主要ルートの距離や高低差などの分析を行った。
愛媛県は今治市内、上島町、大三島、伯方島、大島、広島県は因島&向島、生口島の主要ルートを掲載した7枚1セットの「しまなみ島走Map」を製作・販売をしたところ、全国から問い合わせが寄せられるほど大好評となった。
しまなみ島走マップ(初版)。現在は第3弾まで販売されている
また「サイクルオアシス」では、サイクリストがトイレや水を確保するための休憩所づくりを進めていった。ここでのポイントは、新しいハードをつくるのではなく、サイクリストの受け入れに協力したいと考える住民から、家などの軒先を提供してもらうことにある。この仕組みによってサイクリストと住民との交流の機会を生む。シクロツーリズムしまなみでは、「自転車モデルコースづくり事業」に参画してくれた住民などに声をかけ、協力してくれる住民を公募。協力者にベンチ、空気入れ、タペストリーの貸し出しを行った。その仕組みは広島県側でも受け入れられ、現在は272カ所(愛媛県内のみ)にも及ぶ。
空気入れの貸出、給水、トイレの利用ができるサイクルオアシス
そして自転車の旅で一番多いトラブルはパンクである。これまで島にはトラブルに対応できる自転車店がなかった。安心・安全でサイクリストに旅をしてもらおうと、自動車修理工場やタクシー会社などの地元企業と連携して、出張送迎と搬送、簡単な修理に対応する「島走レスキュー」を整備した。
各地に整備された島走レスキュー
さらに自転車を車内に持ち込める臨時列車「サイクルトレインしまなみ号」の運行やサイクリング専用のチャーター船「サイクルポートしまなみ号」など、公共交通機関との連携にまで発展していく。
山本:今、しまなみ海道は自転車ですごいねといろんな方から言ってもらいますが、法人設立ごろは自転車でまちづくりの認知度は低く、事業が思うように進まないこともありました。しかし、しまなみ海道を元気にしたいと強く思う住民たちの思いと私たちの活動を長年積み重ねてきた結果、県や自治体などを超えた活動にまで発展していったのだと思います。
JR今治駅近くにオープンしたゲストハウス「シクロの家」
ラウンジには自然と人が集まり、旅人同士の交流が楽しめるのも魅力
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