伝統技術の継承に文化、産業、観光の視点を 鵜飼舟プロジェクト
ネットワークで支える「鵜飼舟プロジェクト」
鵜飼で使われる鵜舟をつくる船大工は、現在、長良川、木曽川流域で二人しかいない。この状況を鵜飼関係者などは知っていたが対策を打てずにいた。
この鵜飼舟プロジェクトを立ち上げるきっかけになったのがアメリカ人研究者のダグラス・ブルックスさんだ。ダグラスさんは日本各地で船大工に弟子入りし、船をつくりながら各地のつくり方を記録し、図面に起こすことを続けてきた人だ。
ダグラスさんは10年ほど前に一度、美濃市の船大工那須清一さんに弟子入りを相談したが、当時の那須さんは忙しく、実現できなかった。
今回、ダグラスさんは知人の久津輪さんを通して改めて那須さんに打診し、鵜舟づくりの第一線から退いていた那須さんが引き受けたことでプロジェクトが実現した。アカデミーの一画に作業場をつくり、製図を行うマーク・バウアーさんや、木造和船に興味を持つアカデミーの学生1名も参加することになった。
アカデミー内に設けられた作業場。多くの人が見学に訪れた
2017年5月、舟づくりがスタートした。はじめの1週間は作業が進まず、7月22日に予定される進水式には間に合わない状況になりかけたが、ダグラスさんたちは朝5時30分から作業を行い、予定より早く進行させることができた。
那須さん(手前)が電動カンナをかけるのをじっと見るダグラスさん(奥左)、マークさん(奥中央)
ダグラスさん(左)の作業を見つめる那須さん。ほとんど常時、映像記録のカメラが入っていた
プロジェクトの実施にあたり久津輪さんは、できるだけ幅広い支援体制をつくることを目指した。久津輪さんは鵜舟に限らず伝統工芸の関係者に連携が少ないと感じていた。
長良川流域では、もともと竹細工や和船、和傘などの伝統工芸品については、川の上流で原材料を採り、中流で加工し、下流の人が使うという構造があった。
岐阜和傘
鵜舟で言えば、川の上流にある郡上市などに材料の高野槇が生えており、中流域の美濃市で舟をつくり、下流の岐阜市などで使うということだ。しかし現在ではそれぞれ自治体が違うために、連携がしづらくなっていた。また一つの自治体の中でも、文化財を担当する教育委員会と観光担当課、伝統工芸や産業を扱う産業担当課など関係部署が多く、うまく連携が取れていないこともある。
久津輪さんは2014年、ダグラスさんのアドバイスで、全国の船大工や行政、研究者など和船関係者の連携をつくろうと、アカデミーを事務局として、メーリングリスト「和船ネットワーク」を立ち上げている。
県立のアカデミーが事務局であれば市町村境にこだわらずに取り組むことができる。また学校で取り組むことで、学生から後継者が育つことも期待できる。
鵜飼舟プロジェクト実施前には、アカデミーで長良川の和船製造技術継承を考えるミーティングを行っている。久津輪さんは流域の市職員に声をかけ、3市から出席者を得た。さらに、東京から沖縄まで全国の和船関係者も集まった。そのうえ国立東京文化財研究所からも参加があり、同研究所で記録映像の撮影を行ってもらえることになった。
長良川の和船技術継承を考えるミーティング
プロジェクトの活動中、船づくりの様子は一般公開したため、鵜飼関係者に加え、一般の市民も多く見学に訪れた。新聞やテレビ番組の取材も多数行われ「みんなが貴重な文化だと思ってくれているのだなと感じました」と久津輪さんは話す。
7月22日、岐阜市の長良川うかいミュージアムで報告会、そして進水式が行われた。ここにも多くの市民が見学に訪れた。
進水式に先立って行われた報告会
この後、舟を川の中で数回ひっくり返して沈める伝統的な儀式「舟かぶせ」を行った
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