伝統技術の継承に文化、産業、観光の視点を 鵜飼舟プロジェクト

久津輪雅岐阜県立森林文化アカデミー准教授

2017.10.18岐阜県

観光による需要創造が伝統技術の継承に生きる

 久津輪さんは鵜飼を継承するためだけに鵜舟を継承しようとしているわけではない。鵜舟を含めた、長良川流域の木材を用いる文化全体を残したいと考えているのだ。
 木造和船の造船技術を継承するためには、後継者がそれによって生計を立てられるような状況が必要だ。鵜舟は1艘を10年ほど使い続けるため、それだけでは仕事の量が足りない。長良川流域では鵜舟以外に、川漁師も木造船を使うが、漁獲量は減り、漁師も減っているため、今後漁師舟の需要が増えるとは考えにくいのが実情だ。

久津輪:全国で和船を残そうとする活動がありますが、造船技術だけを継承しようとして、需要もないのにつくってしまい、後で困ることがあるようです。しかし、それを使う文化を残したり新しく生み出したりしなければ、ものは残らないと思います。

 新しい需要を生み出すために久津輪さんが今注目しているのが、「和船を使って楽しむ文化」と、「木造船をつくることを楽しむ文化」だ。
 例えば沖縄には帆を張る伝統的な小型漁船「サバニ」がある。近年、これを使った「サバニ帆漕レース」が行われるようになってから建造の依頼が増え、サバニの存続につながっている。
 長良川流域では、元鵜舟船頭で川漁師の平工顕太郎さんが「結の舟」として、和船で客を案内するツアーを提供し、人気を得ている。和船を使って楽しむ文化が長良川流域でも芽生えつつあるのだ。今回の鵜飼舟プロジェクトで製作した舟も平工さんが購入した。

久津輪:こういう活動に新しい可能性を感じます。今までは地域の中に需要が十分あり、職人はそれに応えるものづくりをすれば食べていけました。しかし現在は、外からの需要に応えることで仕事を作るしかありません。新しい需要は観光の中から生まれると思っています。夜は鵜飼を見て楽しみ、昼は和船に乗って和船が行き交う様子を見ることができれば、川や地域の魅力が増していくのです。

 観光を盛り上げるためにも鵜飼だけでなく、周辺の文化を含めて残すことが大切なのだ。

DSC_0441長良川。かつては舟運の路だった

 また、アメリカでは船の博物館が伝統的な木造船のレプリカを貸し出す一方で、船づくりの講座を開いて人気があるそうだ。
 つくることを楽しむ文化について、長良川流域ではすでに竹細工職人のワークショップが人気となっている。和船についても、一般の人が船づくりを体験できれば、新しい地域の魅力となり、地域の外から人を呼び込むことにつなげられるかもしれない。また、船づくりの見本としての船、講師としての職人の需要も生まれる可能性がある。

 今回の鵜飼舟プロジェクトでは、さまざまな主体のネットワークによる支援体制ができたことに加え、多くの人が見学に訪れ、メディアにも多数掲載された。多くの人に素晴らしい和船の文化があることを知ってもらうことで、新しい需要のヒントを多くの人に探してもらえるのである。久津輪さんは連携の大切さを次のように話す。

久津輪:伝統技術、伝統工芸は、文化、産業、観光の三つの視点を常に持つことが大切だと思います。例えば産業という側面では新商品開発など、短期間で結果が求められる部分がありますが、後継者育成など、その制度になじまない部分もあります。三つの視点を得るためにも、市役所の部局同士、そして職人や研究者、材料を提供する会社などをつなぐ役割の人が必要だと思います。

 観光には需要をつくりだすことによって伝統技術を次代に継承するという機能がある。伝統技術に観光の側面から光を当て、情報を発信したり、それを活用した新しい観光の形をつくり出したりすることも、伝統技術の継承につながる可能性がある。観光は多様な形で意味をもちうるものなのだ。そして、新しい観光につながる視点を持つためには、産業や文化に携わる人とのネットワークを築ける体制が必要だろう。
 また、伝統技術が観光に生き、多くの人が楽しむ様子を見ることが、挑戦してみたいという若い世代の後継者を生むことにつながるかもしれない。これは、伝統芸能や祭りなどでも同様のことが言えるのではないだろうか。後継者の不足を考えるのであれば、地域外の人の視線からその祭りの魅力を考え直し、祭りを盛り上げることも必要だろう。

(取材・文/青木遥)

リンク:岐阜県立森林文化アカデミー

 

取材対象者プロフィール

久津輪雅

久津輪雅岐阜県立森林文化アカデミー准教授

福岡県出身。筑波大学第3学群国際関係学類卒業。NHKでディレクターとして報道番組制作に従事。1999年から2年間、岐阜県高山市の森林たくみ塾にて木工を学んだ後、イギリスに渡り家具職人として働く。2006年より岐阜県立森林文化アカデミー勤務。木工分野の教員として小物や家具制作を教えるとともにグリーンウッドワークを日本に紹介し、普及に努める。「木のものづくりの新しい可能性の開拓」をテーマに、林業、環境教育、地域づくり、福祉などさまざまな分野と連携して活動を行う。長良川の鵜飼道具をはじめとする竹細工技術の継承、岐阜和傘の材料確保や人材育成の支援などに携わる。著書に『ゴッホの椅子』(2016年、誠文堂新光社)。

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