DMOとはなにか

高橋一夫近畿大学経営学部教授

2016.08.01

 それぞれの趣旨は、以下のとおりである。

(1)DMOは官民共同で形成され、地域に持続的な経済効果をもたらす組織である
 観光のもたらす効果は、経済的効果にとどまらず、例えば、農家民泊がきっかけとなって限界集落の行事が維持されるという社会的効果も生み出す(注1)。観光は地域の資源を活用することにより成り立つのであり、地域社会に負の社会的効果をもたらすようでは、そもそもDMOが存立する価値はない。地域の観光振興と地域社会は事業活動によって結びつき、おのずと社会的価値と経済的価値がトレードオフにならないように行動していくことになる。

 社会のニーズに目を向けるとともに経済的価値を創造するというアプローチを、マイケル・ポーターは「共通価値の創造(CSV:Creating Shared Value)」と呼び、「企業(団体)が事業を営む地域社会の経済条件や社会条件を改善しながら、自らの競争力を高める方針とその実行」だと定義している。DMOは地域に持続的な経済効果をもたらす「観光ビジネス共同体」であるということを意識して観光振興を行うことが、地域社会に価値をもたらす。

(注1)詳細は高橋一夫編著『CSV観光ビジネス-地域と共に価値を創る』(学芸出版社、2014)を参照のこと

(2)観光行政との間で役割分担がはっきりとしており、権限が与えられるとともに、その結果に責任を持つ組織である
 観光協会の中には、観光行政の予算執行窓口の役割を持たされているところがある。DMOは人とお金で縛られた組織から脱却して、権限と責任を持った組織でなければならない。権限のない組織に責任は存在せず、責任を取らない組織なら権限を与える必要もない。DMOは従来の枠組みから飛び出すことが必要である。

2011年から「長良川おんぱく」運営の中心となっているNPO法人ORGAN(岐阜県)が日本版DMO候補法人に
2011年から「長良川おんぱく」運営の中心となっているNPO法人ORGAN(岐阜県)が日本版DMO候補法人に

(3)観光地経営を担うに値する専門性を持ったプロによって経営・運営される組織である
 観光地経営は、設定された目的・目標を達成するために意思決定し行動することで、地域の観光事業を管理・遂行していく。観光の知見がない行政マンの出向や天下りが経営人材では、心もとない。プロフェッショナルな人材によって経営・運営されることが求められる。

(4)観光行政との調整により、与えられた権限の範囲内で自ら意思決定をする組織である
 上記からもわかるように、プロが責任をもって意思決定をして行動に移すには、行政関係者からの上意下達ではありえない。しかし、従来の観光振興組織への出向者は行政からでも民間からでも、大抵の場合は派遣元が人事評価をしているため、「自ら」「観光振興組織と地域のために」のみ意思決定をしているとは限らない。

(5)地域の観光関連事業者はもとより、農林水産業、商工業関係者などさまざまな観光地域づくりに参画する新たな担い手とも関わりを持つ組織である
 一昔前のように貸し切りバスで温泉に乗りつけ、決められた行程をまわるようなマスツーリズムの時代とは違い、旅行客は自らの価値観とWebを中心に情報を入手し旅行先を選択する。旅行客の多様なニーズに対応するため、従来の自然資源や文化・歴史資源のみならず、体験や交流が観光対象となることも増えている。テーマやプログラムがはっきりした、地域の隠れた物語や人に感動する知的体験は、従来の観光関連事業者のみならず、地域の農商工関係者や住民という新しい担い手がいてこそ、旅行客に提供していくことができる。

関金温泉(鳥取県倉吉市)の足湯。この地域では(一社)鳥取中部観光推進機構が日本版DMO候補法人に
関金温泉(鳥取県倉吉市)の足湯。この地域では(一社)鳥取中部観光推進機構が日本版DMO候補法人に

 DMOが地方創生の担い手として、従来の観光協会からの看板の架け替えに終わることなく、あるべき観光振興機能を生かすためには、DMOの組織運営やガバナンスにまで踏み込んだ議論とその実践が求められている。

著者プロフィール

高橋一夫

高橋一夫近畿大学経営学部教授

JTB西日本営業本部営業開発部長、東日本営業本部イベント・コンベンション営業部長、コミュニケーション事業部長を歴任。在職中に2004年ロータリークラブ国際大会大阪大会の招致事業などに携わる。流通科学大学サービス産業学部教授を経て、2012年より現職。
総務省地域再生マネージャー、ワールドマスターズゲームズ2021関西大会組織委員会常任委員なども務める。

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