極上のアクティビティ。銭湯が観光の舞台に 全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会 近藤和幸さん
はすぬま温泉の背景画は日本で唯一、男湯と女湯にまたがる一面タイル貼りが特徴
外国人は裸で他人と一緒に風呂に入るのを嫌がる、というイメージを強く持つ人は多い。確かに抵抗を感じる人は多いというが、機会さえあれば、旅の貴重な経験だと勇気を出して入ってみる人も少なくない。
そんな旅行者を温かく迎え、さらに銭湯をPRする取り組みが、羽田空港を擁し、都内で最も銭湯の多い東京都大田区から始まっている。全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合、東京都公衆浴場商業協同組合の理事長で、大田浴場連合会の相談役を務める、近藤和幸さんに話を伺った。
銭湯の良さを若い人や外国人に伝えていこうとさまざまな取り組みを行っている近藤和幸さん
銭湯は根強い人気
近藤さんは、親の跡を継いで38年前から、大田区西蒲田の蓮沼駅近くにある「はすぬま温泉」を経営している。当時は浴室のない住宅も多く、何もしなくても客は多かったが、総務省の平成20年住宅・土地統計調査によると、現在では浴室の普及率は95.5%にのぼる。都内全体でも1965年には2600軒以上の銭湯があったが、平成27年度末には618軒にまで減っている。こうした中で、それぞれの銭湯が工夫を凝らし、客の獲得を目指している。
大田区には現在42軒の銭湯があり、東京23区の中でも銭湯が最も多い区だ。このうち16軒は地中から湧く「温泉」で、「黒湯」が有名だ。
はすぬま温泉は黒湯ではなく緑色のお湯が特徴だ。昼間は高齢者が多いが、夜は20~30代の割合がかなり高いという。筆者が訪れた平日の夜の女湯は、40代くらいの単身女性が多かった。70代くらいの女性が知り合いを見つけて話しかける姿もあれば、中学生くらいの子が一人で入っている姿もある。初めて一人で訪れてもあまり目立つこともなく、自分が話の輪に加わらなくても、周りの温かい雰囲気を感じることができた。
近藤:初めての人に敷居が高いということはありません。我々銭湯の側も、初めて来た人やめったに来ない人に、おもてなしをしなければいけないと思っています。清潔になるのはもちろん、精神面でもリラックスできる場です。そして江戸時代以来、銭湯はコミュニケーションの場でした。半分は遊びに、地域の情報を得に銭湯に行っていたのです。今も銭湯には、高齢の方も若い方もいて、社会の縮図があります。それを我々も理解してお客さんに提供できると、楽しい場だということが伝わると思います。
洗い場での会話はもちろん、入浴後にロビーでくつろぎ、おしゃべりを楽しむ客も多い。はすぬま温泉ではハーブティーを無料でサービスしている。
サービスのハーブティーは、チェリーとストロベリーの甘い香りが広がる「スウィートキス」
大田区では高齢者に銭湯の入浴補助券を発行しており、これを利用して楽しむ人も多い。また、区や都の浴場組合が行っているスタンプラリーに参加して、さまざまな銭湯をめぐって楽しむ人も増えている。
それ以外に近藤さんは、さまざまな切り口で銭湯の価値を向上させる取り組みを行っている。大田区の銭湯では区から災害用の備蓄品を提供してもらい、一時的避難所としても機能するようになっている。また、子どもの「浴育」を行うほか、今年1月には東京都と都浴場組合で高齢者等を支える地域づくりの協定を結んだ。これに先立ち、大田区浴場組合の全組合員が、認知症見守りサポーターの養成講座を修了した。
近藤:銭湯が防災、教育、健康寿命の延伸などにも役立つことに今まであまり気づいていませんでした。これからも自分たちで役割を見つけ出していかなければなりません。
2012年に映画『テルマエ・ロマエ』が公開されたときには、ロケ地をはじめ銭湯を訪れる若い人が増えたという。その後も映画『テルマエ・ロマエⅡ』『湯を沸かすほどの熱い愛』、ドラマ『昼のセント酒』、東京スカパラダイスオーケストラ「Girl On Saxophone X」のミュージックビデオなど、さまざまなコンテンツの舞台となっている。若い世代も、訪れる機会は少なくとも、銭湯に魅力を感じていないわけではなさそうだ。
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