極上のアクティビティ。銭湯が観光の舞台に 全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会 近藤和幸さん

近藤和幸全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会理事長

2017.03.06東京都

「攻め」の銭湯PR

 「受け入れるだけではなく攻めるのも大事です」と言う近藤さん。外国人観光客にもっと銭湯を訪れてもらうには、日本に来る前に銭湯の存在に気付いてもらうことが必要だと近藤さんは考える。そのため、SNSを使ったPRにも力を入れている。銭湯大使ステファニーさんによるインスタグラムに加え、はすぬま温泉には、洗い場だけではなくロビーにも富士山の絵を設置した。洗い場では写真が撮れないため、訪れた人にここで写真を撮ってもらい、SNSに上げてもらおうという考えだ。実際に外国人客がよく撮影しているという。
 また平成29年度の東京都の予算案では、公衆浴場利用促進事業の予算があり、外国人向けに銭湯を紹介する動画の作成・配信経費へ利用したいと考えている。

近藤:今までも動画は作成していますが、今は普通の動画ではヒットしません。ステファニーをはじめ、外国の方に大勢参加してもらい、組合のキャラクターのゆっポくんも登場させて、楽しいものにしたいです。

 もともと銭湯は観光業ではない。それでも経営者たちはこうした取り組みに前向きだという。

近藤:2020年に向けて、オールジャパンでという雰囲気がありますからね。全国では地域によって温度差がありますが、最近では地方を訪れる外国人観光客も増えています。

 近藤さんは今後もさらに取り組みを進め、「SENTOをスシやスモウと並ぶ世界語にしたい。東京オリンピック・パラリンピックの選手村に銭湯をつくりたい」と意欲的だ。

近藤:東京にある600軒の銭湯のそれぞれの個性を楽しんでほしいですね。全国にはさらに多様な銭湯、そしてそれぞれの地域のコミュニケーションがあります。外国の方と一緒になったときも、言葉がわからなくても、言いたいことは何となくわかります。巡ってみると、楽しいし奥が深いし、いろいろなものが見えてくると思いますよ。

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「調子はどう?」などの会話をしながらお客様を明るく迎える

 大田区の銭湯が観光の目的地になってきたということは、さまざまな意味からとらえることができる。大田区は東京23区の中でも銭湯が最も多い区で、「黒湯」をはじめとする温泉が多い。羽田空港周辺で、短時間で観光をしたいというニーズが、外国人観光客の増加に伴ってさらに高まっている。また、訪日外国人観光客にリピーターの割合が増え、庶民の生活を見て、体験する観光に目が向き始めている。外国人観光客にとって銭湯はこれまでにない「体験」であり、「モノ消費」から「コト消費」へという流れにも合致している。予約不要で安価な、気軽に参加できる体験だ。銭湯側から見れば、利用者数が減少し続ける中で成長への希望にもなっている。さまざまな業種が観光に参入し、観光を活用できるという例でもある。
 これほどプラスの要素をそろえられる取り組みも珍しい。それは近藤さんたちが、銭湯を盛り上げる方法を、これまで戦略的に考えてきたからだろう。一方で、せっかく銭湯を訪れてくれた外国人をもてなしたい、楽しんで帰ってほしいという、シンプルな思いも持っている。銭湯が昔のような隆盛を見せるのは簡単なことではないが、この両面からのアプローチ、とプロモーションやメディア展開などがうまく重なれば、新たなブレイクも夢ではなさそうだ。

(取材・文/青木 遥)

リンク:全国浴場組合(全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会)
    東京銭湯(東京都公衆浴場業生活衛生同業組合)
    大田浴場連合会
    はすぬま温泉

取材対象者プロフィール

近藤和幸

近藤和幸全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会理事長

東京都大田区出身。1979年より東京都大田区西蒲田の「はすぬま温泉」の経営を引き継ぐ。東京都公衆浴場業生活衛生同業組合理事長、東京都公衆浴場商業協同組合理事長、大田浴場連合会相談役。

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