観光政策のコツは、地域資源の編集にあり   リノベーションによるまちづくりからみた観光政策術

徳田光弘九州工業大学大学院准教授

2015.11.16福岡県

域内経済の自立化に向けた持続的な観光経営へ

 観光政策の目的の根本は、外部経済に搾取されにくい持続的な域内経済の自立化にある。その観光政策は、域内経済の自立化に向けた政策だろうか、むしろ自立化を阻害していないだろうか。観光政策において、地域資源の編集能力とともに求められるのは、観光政策の持続性を担保し、域内経済の自立化を促していく能力、すなわち経営能力である。

 観光政策は、時として補助金という形に変わり域内経済の自立性を阻害する。補助金がないとできないでは、持続性は担保されない。域内経済の自立からもほど遠い。補助金は枯渇性資源であり一過的だからである。投入された補助金が確実に回収されるまでのフローは見えているか。シンプルな歳入と歳出の問題。当然ながら、補助金を使って「見えない価値」が生まれたとすれば、それはあくまで副次的であり、歳入に組み込むのは経営上ナンセンスでしかない。

 再びタンガテーブルを取り上げると、リノベーションスクールを通じて実事業化された他の案件と同様に、この事業においても一切の補助金は投入されていない。民間の自主事業である。にもかかわらず、タンガテーブルがオープンしたことで、新しく観光案内所の整備も、旦過市場の観光開発も、すぐに陳腐化してしまう観光マップでさえも、わざわざ無いものを補助金でつくる必要がなくなる。そこに有るものを編集した事業者自身が、自身の手の届く範囲で、来訪者のために、自身のビジネスのために、そして自身が住む地域が豊かであるために、それらの機能をビジネスの中で開花させていくからである。さらに、この事業に賛同した人々は投資家として事業を応援するからである。

 その地域の「住民の住民による住民のための観光政策」、地域住民が民間としてもつパブリックマインドに、新しい公共と、行政に依存しない本当の民主化のかたちはある。観光政策の持続性と域内経済の自立性は、本来このように醸成されていくものだ。観光政策における地域資源の編集能力と経営能力を持ってさえいれば、住民たちの手で豊かな地域の未来は描けるのである。

 無いものねだりをしていないだろうか。有るもの探しをしているだろうか。編集能力と経営能力は十分に発揮されているだろうか。回収に見合わない過剰で大掛かりな投資をする必要はない。まずは確実に回収が得られる投資の大きさで。

 はじめは小さくとも、大きく育てればよいのである。

(岡山市奉還町のゲストハウス&ラウンジ「とりいくぐる」にて。)

著者プロフィール

徳田光弘

徳田光弘九州工業大学大学院准教授

九州芸術工科大学(現九州大学)博士後期課程修了。博士(芸術工学)、一級建築士。それぞれの地域が固有にもつ多様な資源(ストック)を最大化して、豊かな暮らしを目指していくリノベーションによるまちづくりを教育研究と実践の双方から取り組んでいる。リノベーションスクール代表、一般社団法人リノベーションまちづくりセンター代表理事など兼務。

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