注目を集めるご朱印、パワースポットを巡る旅
宗教と観光のゆくえ
パワースポット・ブーム以降、多くの人でにぎわうようになった今戸神社
宗教を観光に取り込む動きは日本だけのものではない。たとえば、世界遺産登録された物件を見れば明らかだろう。日本でも京都や奈良の寺社、紀伊山地の聖地、厳島神社、日光の社寺などが登録された。海外でも、多くの寺院や教会が観光に動員され、いずれも多くの観光者を集めるようになっている。
宗教施設は、多くの場合、何百年も何千年もその場所に存在してきた。地域の記憶を留める場所であり、そこを訪れるのは、観光者にとっては大きな魅力となる。宗教文化を従来のような宗教的な言葉で語るのでなく、信仰のない人々に分かるように再提示することが求められる。
とはいえ、宗教文化を用いた観光振興にはクリアすべき点もある。まず、日本では政教分離の問題がある。地方自治体などが、特定宗教を助長するようなことはできない。地域の伝統文化を観光資源として語り直していることを明確にする必要がある。
また、宗教施設は、信者にとっては大切な祈りの場だ。したがって、祈る人と見る人が衝突するような状況は避けなければならない。東京大神宮(東京都千代田区)や今戸神社(東京都台東区)のように、神社側もパワースポットや縁結びに肯定的で、宗教観光が大成功した事例も多い。
他方で、たとえば世界遺産候補となっている長崎県の教会群では、観光化による被害も生じている。礼拝の最中に、観光者が教会の中に入り、無遠慮に写真撮影をするといった行為だ。宗教者や信仰者のことを第一に考えた上での観光策が必要となる。彼らが宗教伝統を伝えてきたからこそ、観光資源として価値を持つのである。
宗教文化は至るところにある。しかも、聖なるものであるがゆえに、観光資源としても貴重だ。上のような点をクリアすることで、これからも、他にはない魅力的な場所が生まれるはずである。
■著者プロフィール
筑波大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。専攻は宗教学と観光社会学。日本とヨーロッパで調査研究を行い、特に宗教文化を対象とする観光に注目している。
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