注目を集めるご朱印、パワースポットを巡る旅

岡本亮輔北海道大学大学院観光創造専攻准教授

2015.12.01青森県

巡礼ツーリズムのしかけ

 観光で神社仏閣を訪れるのは、今に始まったことではない。一言で言ってしまえば、観光とは非日常的なもので人を集めることだ。寺社や教会には聖なるものが置かれ、他とは絶対的に区別される。だからこそ、宗教と観光は相性が良い。

 最近になって目立つのは、そうした聖なる場所を信仰のない人々が訪れる巡礼ツーリズムだ。現代では、信仰を持つ人は少なくなったと言われるが、寺社や聖地を訪れる人は増えている。伊勢神宮、高野山、出雲大社のような伝統ある寺社ですら、近年、空前の来訪者数を記録している。

 これにはしかけがある。寺社についてのプレゼンテーションの仕方が変化したのだ。昔ながらの由緒や伝統だけではなく、新たなストーリーやイメージを重ねるのだ。

宗教文化の観光利用

 ご朱印集め、一之宮めぐり、パワースポットといった言葉を耳にしたことがあるだろう。宗教的には、ご朱印は御守りと同等のものとされ、決して記念スタンプではない。だが、ご朱印のコレクションという観光実践を提示することで、それまで人が訪れなかった寺社にも観光者がやってくる。

 一之宮めぐりも同様だ。旧国名につき一つずつ一之宮と呼ばれる神社がある。だが、その地域でもっとも格式高い神社かと言えば、必ずしもそうではない。また、伝統的な信仰を持っている人からすれば、一之宮だけを巡ることに必然性はないはずだ。だが、一之宮という古くからの制度を利用して、そこだけを巡るという観光ネットワークが生み出されたのだ。

 パワースポット・ブームはより先端的な例だ。2000年代になってから、頻繁に使われるようになった言葉だ。何かエネルギーがもらえる場所、心身がリフレッシュできる場所などを指す。一般的な寺社や教会に加えて、美しい自然景観や変わった地形のような場所も、パワースポットとして観光対象になっている。伝統的な宗教文化に新たなラベルやストーリーを付けたり、独特のネットワークに組み込むことで観光に利用するのである。

 

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