観光まちづくりに「ツアーデザイン」の考えを あわらツアーデザインセンター
街づくりにデザインを─まちの情緒を再構築
湯の町のメインストリート 湯~わくdori
武田:
「あわら温泉はロケーションという点では強い魅力を発揮できないのです。そのかわり、各旅館が努力を重ね、それぞれ素晴らしい庭園をつくって好評を得ていました。
そのため、旅館内ですべてが完結し、お客さまがあまり街へでていかない時代が続いました。あわせて、過去の地震や大火の経験から、災害に強い温泉街を標榜し、広い道路と鉄筋コンクリートの旅館施設が並ぶようになり、街から「情緒」がなくなっていたのです。
そこで、ハードも含めた街並み整備に取り組みました。旧旅館跡地を「湯のまち広場」として整備し、芸妓さんが練習する伝統芸能館や、藤野厳九郎記念館、屋台村「湯けむり横丁」などを整備しました。
中でも、新設された「芦湯(足湯)」は北陸で一番を自負するもので、本年は16万人以上のお客さまを集めました。また、市道の一部を一方通行として広い歩道を整備し「湯~わくdori」と命名したり、まち歩きのツールとして「湯めぐり手形」という気軽にさまざまな温泉を楽しんでもらえる商品が開発されています」
芦湯にたくさんのお客さまに来ていただけたのには理由があった。「あわら」にこだわった施設だったからである。建物は、焼失する前にはあわらの象徴ともいえた老舗旅館「つるや」の木造3階建建築を模し、福井産をふんだんに使った総檜づくり。町並みにも大正ロマンを意識したデザインをほどこし、古き良きあわら温泉を再現している。
武田:
「近年のお客さまは、地域の歴史や生活、たたずまいが見えるものを求めています。
かつてのランドマーク『つるや』を復活させ、地域に密着した景観づくりを行うことで、地元の人たちが自信をもって勧められるものにしていったのです」
グループでも気軽に楽しめる芦湯
観光まちづくりに向けて「観光ビジョン」策定へ
今、地域に必要なのは、「地域の人たちが自信を持って地域を紹介できること」と武田さんは言う。お客さまのニーズも、地域の歴史や文化、その地の人々の生活や息づかいが感じられることにあると言う。
デザインは見た目から入ると理解しやすいが、その心が生きていなければ意味をもたない。地域の強みと弱みを見極め、自分たちには何があるのかをしっかりと認識することが重要であり、そうすることで次に打つべき手が見えてくるのだろう。そして事業を動かすのは地域の人たちであり、人と人のネットワークが必要だ。観光はスポット観光からエリア観光へ、ルート観光へと流れは変わりつつある。そうなることで着地型観光が根づき、地域発展につながっていく。あわら市ではそれがすべて「ツアーデザイン」という考えの中で捉えられているといえよう。
そんなあわら市観光協会は現在「観光ビジョン」の策定を計画中だ。大筋はまとまっており、計画案では基本理念は「大切な人を世界一幸せにするまち」として、その下に4つの戦略と戦術を掲げている。
新しく完成する「観光ビジョン」には、近年の取り組みが生かされ、新しいあわら温泉の観光地としての未来が見えてくることになるだろう。
(インタビュー・文 太田正人)
スポンサードリンク