着地型観光は本当に「儲からない」のか

井門隆夫株式会社井門観光研究所代表取締役

2012.04.01

 「着地型観光は儲からない」と陰でささやかれることがよくある。それは、ある意味で「ごもっとも」な意見なのだが、着地型観光が既存型観光に比べるとコペルニクス的に変わっている点を理解できないでいると、このような誤解をしてしまう。

 まず第一に、着地型観光とは一種の「社会起業」である。とりわけ、地域の女性やシニア、Iターン者や在日外国人といった住民の方に主体的にかかわってもらい、交流人口増加を(できれば定住人口増加も)果たすことにより、地域の生産性を底上げするのがその特長である。

 着地型観光で、例えば、3,000円のツアーが10人×年間50本=150万円売れたら大成功である。そうしたツアーを年間10本売って、1,500万円の年間売上。原価を50%と仮定して、売上総利益750万円だとしよう。この数値を見て、儲かったと思うか否か。おそらく、既存型観光従事者であれば「こんな数字では人件費も出ない」と思うのではなかろうか。一方、社会的ベンチャーや副業で、もしこれだけ稼げれば相当儲かったことになる。その違いを埋め切れないでいる。

 第二に、旅行業とは「運輸(特に旅行先での二次交通)と宿泊とからめる」ことをしなくては、なかなか収入が増えない。ウォーキングツアーだけであれば、何も旅行業を取得しなくてもできる。いざ社会起業として始めても、この「旅行業の壁」を越えられないでいる。当然、運輸業や宿泊業と連携したり、契約したりする必要があるのだが、そのひと手間をかけられない。すなわち、プロになりきれないでいるのだ。

 そのため、地域には、地域の方々に旅行業のノウハウを教えるファシリテーターがまだまだ必要だ。運輸や宿泊業との強いパイプを持っていればなおさらよい。その役割を果たせる人材が圧倒的に不足している。

 第三は、誤解というより強化が必要な点として、「商品編集力の不足」が挙げられる。ありがちな「観光資源をつないだだけ」の商品では、買う動機が見当たらない。

 利用者にとって便益のある商品とするためには編集が必要だ。雑誌の特集企画をすると思えばよい。例えば、「出張帰りのもうひと旅」。せっかく地方出張に来た方に、地元自慢のお土産をウンチクとともに買って帰ってもらいたい。それでは、観光客が気づかない地元の名店や工房、市場等で買い物を指南・アレンジしてあげる開店前の早朝ツアーはいかがだろう。駅や空港行き乗合いのジャンボタクシーでの2時間観光。地元の人でないと交渉できず、かつ利用者主体の発想の商品に仕立てあげたい。

 着地型観光をラインナップしておけば、コンベンションのエクスカーションやインバウンドのオプショナルツアー需要にも対応できる。LCCが就航すれば、空港発着の新しい観光需要を見込むことも可能だろう。

 既存の発想やビジネスモデルに基づき、「儲からない」と否定をしている限りは永久に始まらない。着地型観光は、ノウハウを蓄積するのに時間がかかるため、先行者利益を享受できる。どの地域が地域間競争に勝ち残るか。新しい需要を創造できるか。着地型観光元年は、まだ始まったばかりだ。

著者プロフィール

井門隆夫

井門隆夫株式会社井門観光研究所代表取締役

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