観光で農業を、まちじゅうを活性化する    宮城県丸森町 丸森型グリーン・ツーリズム

2016.03.01宮城県

「媚びない」自信でまちにエネルギーが

 有名な観光地は少なく、二次交通も発達していない、観光には不利な状況で、なぜ観光振興を進めるのだろうか。
 早川さんは「観光業をやっている気はさらさらない」と話す。

早川
「農家さんがきちんと食べていける農業をするための一つの手段です。農家さんがやめてしまえば、国土が荒れ、農村景観もグリーン・ツーリズムも成り立たなくなります。観光や農業などが一体となった取り組みで、農家さんが元気に農業をし、新規就農者が参入するといいと考えています」

丸森地場産品直売所「あがらいん伊達屋」
丸森地場産品直売所「あがらいん伊達屋」

 グリーン・ツーリズムは農業、農家の活性化にどうつながるのか。加藤さんはその効果として2点を挙げる。
 1点目は人の活性化だ。人が来ることで話す楽しさを覚え、自分のところの良さに気付き、もっと人を呼びたいと思う。
 2点目は経済の活性化だ。人が来ると何らかの形でお金を使う。

加藤
「ツーリストを立ち上げたことで、齋理屋敷や舟下りだけでなく他もまわってもらい、町内の至る所が活性化することを主目的にしています」

 しかし最初から目的が整理されていたわけではない。

加藤
「お客さんに来ていただいた先に何があるのか、という壁にぶつかりました。遊びに来られて、おもてなしをして、喜んで帰っていただく。でも、あまりお金が落ちるわけでもなく、残るのは疲弊だけ。お客さんのためにはなっても、ここに住む人のためにはなっていない。何か違うなと思い始めました」
 と振り返る。しかし、早川さんとともに取り組むうちに気付いたことがあるという。早川さんは町内をまわる中で「だめだよーこんな値段じゃ」と言うことがしばしばあるそうだ。

早川
「この間もある直売所で、へそ大根(輪切りの大根を煮て干した丸森の特産品)と干したニンジン、ゴボウが一袋350円で売っていて、機械ではなく天日干しだというから、本当にびっくりして。よくも悪くも、お金儲けができない人が多いのです。私たちは、都会の人に媚びる必要は全くないと思っています」

 作成した地図の「まるもりまるごとおすそわけマップ」というネーミングも、

早川
「完全に“上から目線”です。都会の人にもちょっとだけおすそわけしてもいいよという感じです」

 町出身の加藤さんは「私たちはそういう感覚は持てなかった」と言う。

加藤
「嫌な思いをさせないよう、これでもかともてなすのが当たり前でした。しかし東京から来た彼女が、なんでこんなおいしいもの、すごいもの、こんなに手をかけたもの、と目の前で言い続けてくれて、町の人が自信を持ち始めたのです。人の意識が変わると、町にエネルギーが溢れていくようです。彼女の言葉は魔法ですね。労力の対価が支払われるべきだと、目的は人が増えることではなくその先だと、気付きました」

へそ大根
へそ大根

 ツアーで “こらいん” ツーリスト自体が大きな利益を上げることは「難しいと思う」としながらも、「やっていく意味があると思う」と加藤さんは話す。早川さんは事業をうまくコントロールし、これまで全体で赤字は出していない。

 また“こらいん”ツーリストでは、直売所スタッフの視察研修旅行、役場や議会の視察研修などの企画や手配も行う。「他の地域で刺激を受けることは、町内の受け皿が整うことにつながります」と加藤さんは話す。

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