観光で農業を、まちじゅうを活性化する    宮城県丸森町 丸森型グリーン・ツーリズム

2016.03.01宮城県

あらゆる素材で丸森型グリーン・ツーリズム

 丸森町では2006年3月に「丸森型グリーン・ツーリズム計画」を策定した。グリーン・ツーリズムは一般的に農業体験や農村集落での滞在のイメージがあるが、ここでは「あらゆる素材を組み合わせるのが丸森型グリーン・ツーリズム」と定義づけた。

「有名な温泉などがあるわけではない丸森では、あらゆる宝物を磨き上げてアピールするしかないのです」と、町商工観光課加藤あけみさんは話す。

 このころスタッフに加わったのが、現在丸森“こらいん”ツーリスト所長を務める早川真理さんだ。早川さんは東京出身で、仙台でライターをした後、丸森町に移住した。早川さんは町内でさまざまな人たちとつながり、コンテンツの掘り起こしと磨き上げを始めた。

早川真理さん(左)と加藤あけみさん
早川真理さん(左)と加藤あけみさん

 例えば「百目木(どうめぎ)ガーデン&百花fe(ひゃっかふぇ)」では、クリスマスローズの栽培、直売を行う。東京でサラリーマンをしていた義高光さんが移住して始めた。ここを見学し、花を買うことも丸森型グリーン・ツーリズムだ。客がしばらく滞在できるよう、義高さんはトイレやカフェを手作りで増設した。

クリスマスローズ(左)と受粉の説明をする義高光さんクリスマスローズ(左)と受粉の説明をする義高光さん
クリスマスローズ(左)と受粉の説明をする義高光さん

 「カフェつぶっこ」は大張地区の田の中にある。民家の一角を改装した、この地区唯一のカフェだ。オーナーの佐藤真紀さんは積極的に新しいメニューを開発、今年からは地元産食材を使ったランチも始めた。五穀米を使ったアクセサリーの販売や制作ワークショップなども行う。

地区唯一の「カフェつぶっこ」(左)と地元食材を使ったランチ地区唯一の「カフェつぶっこ」(左)と地元食材を使ったランチ
地区唯一の「カフェつぶっこ」(左)と地元食材を使ったランチ

 他にも繭細工、紙漉きなどの体験ができるよう環境が整い、人も育ってきた。
 しかし、例えば体験後に直売所に寄ってもらうような、コンテンツ同士をつなぐ手段がなかったため、すぐに帰る客が多かった。町のバスは一部地域に1日4本ほど走るだけで、増便の予定はない。自家用車でも道が複雑だ。そこで、バスで丸森へ連れてきてコースを組めるよう、旅行業登録をしたいと早川さんは考えた。登録に必要な旅行業務取扱管理者の資格は自ら取得した。町商工観光課の賛同を得て町長に提案したが、予算は下りなかった。現状の限界まで来たように感じた早川さんは、一度手を引くことを決め、2011年の初め、栃木県那須町に移ることが決まった。

 その直後、東日本大震災、そして福島第一原発事故が起こった。平成23年度には、観光客は平均で5割減、阿武隈ライン舟下りは前年度の2割にまで落ち込んだ。

 グリーン・ツーリズムも「風評被害や一部の実害で、売り出していたものが全部だめになりました」(加藤さん)という。例えば町では以前からたけのこ掘り体験などを行い、たけのこのブランド化を進めてきた。しかし2012年4月、たけのこに含まれる放射性物質が基準値を超え、国から出荷制限指示を受けた。2014年に耕野地区で指示が解除されたが、他では今も出荷制限が続いている。

加藤
「今は前向きな話をしていますが、当時はどうしていいかわかりませんでした。丸森は怖いから行かない、農産物も食べないと言われ、半年くらいはただ悩んでいました。目の前のできることをやる、検査で大丈夫だとわかったものを出していると言い続けるしかありませんでした。
 少し落ち着いてからは、他のまちで売る回数を増やし、安心安全を訴えました。バスでお客さんを連れてくるなど、やれることからこつこつやりました。ウルトラCの秘策などなくて、訴え続けるしかなかった気がします」

 震災から約2年後、町のラジオ番組が始まるとき、番組スタッフから「大丈夫だとわかっているものを改めて大丈夫と言い続ける時期は終わっているのではないか」と言われ、そのときから、丸森に来てほしいとアピールし続ける方針に変えた。

 そして町では旅行業登録を目指すことになった。2014年に早川さんは公社に戻り、昨年7月に第2種旅行業登録を行った。

1 2 3 4 5

スポンサードリンク