主事から副町長へ、吉弘拓生さんの仕事のしかた（後編）群馬県下仁田町　「やりたい」を後押しする「現場スピリット」

吉弘拓生下仁田町副町長

2016.10.04群馬県

町外での気付きを観光に生かす

　観光についてもこの二つのキーワードを重視して取り組みが進められている。下仁田町には世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産の一つ、天然の冷風を使用して蚕種を貯蔵した施設「荒船風穴」があり、自家用車と徒歩または観光タクシーで行くことができる。また妙義山、荒船山などに登山好きな人は訪れているが、一般にはまだあまり知られていない。

青岩公園。町内は地質の宝庫と言われジオパークにも認定されている

　下仁田町観光協会は昨年一般社団法人化された。3種旅行業登録を行い、日本版DMO候補法人にも登録されている。また外国語対応を進め、町観光案内所は日本政府観光局の外国人観光案内所カテゴリー2に認定された。

下仁田町観光案内所

　さらに今後はアウトドア関係の企業と連携して、登山などのイベントを仕掛けていく計画も進めている。課題は、さらなる観光客の受け入れ態勢の整備だ。

吉弘：例えば、今は登山道がしっかりとは整備されていませんが、アウトドア専門店や企業の方々などプロの目で、整備して今後採算が取れるのか見てもらい、取れないなら違う戦略を取らなければなりません。
　また、ガイドなどもまだ手が足りないので、高齢者の皆さんの知恵を生かすなど、ハード、ソフトの両面で整備していかなければなりません。
　DMOという言葉だけが先走り、補助金を期待するだけでは失敗の原因になります。町民の皆さんが納得して自らPRできるような仕組みにしなければいけないと思います。
　インバウンドは今後ますます重要視されると思いますが、サインや案内などが外国の皆さんの視点に立ってできているのか気になります。観光に携わる方は、自分自身が海外や他のまちへ行って、どう感じるか、自分のまちと比べてどうか、一度見てみるといいのではないかと思っています。

　最後に、吉弘さんのように若手市町村職員が、他の市町村の特別職として派遣されることについてどう思っているのか聞いてみた。

吉弘：私はあったほうがいいと思います。もちろん、中央官僚の派遣を否定するわけではありません。補助金の情報は得やすいでしょうし、地元に溶け込もうとされている方が多いです。ただ、人財育成や地域づくりでは負けていないと思います。現場から若手職員を副町長にするというのは、同じ世代の皆さんが動きやすくなったり、やりたいことをやれたりする可能性のある、働き方改革でもあるのではないかと感じています。魅力を感じる人ばかりではないと思いますが、いろいろな働き方の可能性があっていいのではないかと思います。おそらく私が先行事例になると思いますので、変な形で辞めないようにしなければと思いますね。
　ただ、出向や受け入れの体制は整えたほうがいいと思います。任期を終えた後のことはまだ暗中模索の状況ですね。

　吉弘さんの下仁田町での取り組みからは、例えば次のようなポイントが見える。

役職によって、
○責任を取って仕事ができる
○やる気のある他の職員の後ろ盾になれる
○腹を割ってコミュニケーション（飲み会含む）
○企業と連携
○地域づくりは思い切った人材育成から

　現場から副市長になった吉弘さんは、若手職員がどんなことに困るのか、どんなサポートがあればうれしいのかがよく分かり、細かい部分まで気配りができる。それが、安心して提案ができることにつながり、今ではそれがさまざまな新しい取り組みとして現れ、町役場を少しずつ変えている。
　吉弘さんの例からは、現場から副市長村長への登用が、これまでにない効果を生んでいることが分かる。まちを変える、特に役所の中から変えようとするなら、このような市町村から市町村への派遣、さらには派遣でなく若手職員をそのままその自治体の副市町村長に登用するなど、さらに多様な人材起用を考えてもよいのではないだろうか。若手職員が上司の決裁を気にせずに新しい取り組みを始められる方法にもなる。
　もちろん、さまざまな反発も予想され、責任も伴うため、皆が望むとは限らないが、望む人に道が開かれることが期待される。市町村職員の中には、吉弘さん以外にも、副市長村長を務めるだけの能力のある人材が何人もいるはずだ。

（取材・文／青木遥）

リンク：
下仁田町ホームページ
 下仁田町観光協会