主事から副町長へ、吉弘拓生さんの仕事のしかた(前編) 福岡県うきは市の森林セラピー 「納得」が人を動かす

吉弘拓生下仁田町副町長

2016.09.30福岡県群馬県

6割が味方ならいい

 こうした取り組みに対して、周りの職員からは「なぜ毎週職員が出ているのか」「何か効果があるのか」と言われることもあった。

吉弘:「あいつが一生懸命やっているから応援しよう」と、見えないところで見てくれている人もいましたが、なかなか全員がそうなることはなく、苦労はありました。まちづくりには特効薬がないので、積み重ねていくしかないと話していたのですが、一方で、自分が森林組合に帰った後に、今やっている取り組みが残っていくのかなという不安はありました。森林組合の職員という「よそ者」がやっているというイメージを持つ人が多く、歯がゆい思いもしました。

 吉広さんは森林組合の上司にも相談し、市職員の試験を受けることにした。3度目で合格し、正式に市職員となって、同じ係に配属された。これにより、条例や規則づくり、協議会の運営など、できる仕事は広がった。後輩も育てられるようになった。
 吉弘さんは、自分がいなくてもまわっていくような形を2~3年でつくり、徐々に案内人や協議会の皆さんが自主的にやっていけるようにしたいと考えた。

現在はヨガと組み合わせたツアーも行っている
現在はヨガと組み合わせたツアーも行っている

吉弘:地域の方が納得して行っていることでも、「吉弘がいないとできない」となると、続いていかないんですよね。また、役所が急に手を離すと住民にがっかりされてしまいます。いい意味で引き際を考えていました。

 正式に市職員となったことで、周りの職員の間にも、仲間を応援しようという流れが生まれた。しかし、100%の賛同を得られたわけではなかった。

吉弘:自分の基準があって、6割の人が理解して味方についてくれればいいと考えていました。当時の上司や課長、部長は応援してくれていて、体の心配はされましたが、無理のない範囲で一緒に動いてくれていましたね。

 何より市民の方々が一緒に活動してくれたことがよかったと吉弘さんは話す。

吉弘:きれいごとを言わないことですね。本音で話す。ただできないと言うのではなく、こうすればできるかもしれないと対案を出したり、一緒に考えたりして、信頼関係をつくっていかないとうまくいきません。最後に大事なのは人だと思いますね。

 こうして、森林セラピーの取り組みを続けながら後輩を育てていった吉弘さん。2013年には総務省地域力創造アドバイザーにも任命され、講演などで全国を訪れるようにもなった。

 吉弘さんのうきは市での取り組みからは、例えば次のようなポイントが見えてくる。

○現場をかけずり回って知る
○初心を忘れず、動くべき時に動く
○住民と膝と膝を合わせて、本音で話す(飲み会含む)
○キーマンを探す
○納得してもらう
○6割が味方ならいい

 取り組みを進めるのにまず協力を得るべき人、どうしても協力を得たい人は誰なのかを考え、いかに納得してもらうかを考えることが大切なのだろう。人の心を動かし、納得させるのが「本音」なのかもしれない。
 吉弘さんは森林組合時代、山野所有者や林業を営む家、一人で木こりの作業をする親方など、さまざまな人々の間を走り回っていたという。現場で多様な人と関わり合う経験は、自治体職員にとって、取り組みを実現するうえでとても重要なのではないだろうか。(後編に続く)

(取材・文/青木遥)

リンク:
下仁田町ホームページ
うきは市ホームページ
うきは市観光協会

 

取材対象者プロフィール

吉弘拓生

吉弘拓生下仁田町副町長

福岡市生まれ。九州産業大商学部卒。元ラジオDJ。浮羽森林組合(福岡県うきは市)に勤め、2008年からうきは市に出向。2010年にうきは市職員となる。2015年4月から現職。総務省地域力創造アドバイザー。

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