マーケティングから地域に観光の力を 下呂温泉観光協会
客観的データから施策を
7月の3連休初日の昼過ぎ、岐阜県下呂市の下呂温泉街には若い世代が溢れていた。学生グループやカップル、子ども連れの家族。中高年の夫婦や海外からの家族連れも交じる。しかしその数時間前、同じ日の朝には中高年の夫婦が多く、その親らしい高齢者の姿もあった。「日本三名泉」とうたわれ、名古屋から車で約2時間、特急で約1時間半の距離にある下呂温泉には、幅広い世代が訪れている。
平成27年度の宿泊客数は、前年度比105.9%の104万2,569人だった。今年度の4~6月も前年度比107.3%と、経済情勢が厳しい中で好調が続く。そこには、客観的データを基にしたマーケティングの成果があった。
観光庁は昨年度、日本版DMO候補法人の登録制度を定め、今年7月末現在で88件が登録されている。日本版DMO候補法人には、基礎的な役割・機能として次のことを実施することが必要とされている。
(1)日本版DMOを中心として観光地域づくりを行うことへの多様な関係者の合意形成
(2)各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立
(3)関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作り、プロモーション
一般社団法人下呂温泉観光協会は今年4月、日本版DMO候補法人として登録された。しかしそれ以前から上記のような機能を果たす取り組みをしている。マーケティングの体制を整え、現在もさまざまな施策の中心となっている、一般社団法人下呂温泉観光協会(以下協会)会長で下呂温泉水明館代表取締役社長の瀧康洋氏に話を伺った。
岐阜県
下呂市
下呂温泉の好調ぶりは数字に表れている。昨年度、国内客は前年度比100.5%、海外客は230.0%である。国内客が大きく伸びた地域の一つが関東(104.8%)だ。この数字を生んだのは昨年度の新しい施策だと瀧会長は言う。
昨年度全国で「ふるさと旅行券」が発行されたが、岐阜県のものは個人客や募集型企画旅行を対象としており、団体客は対象外だった。また、2012年の関越自動車道バス事故以降、高速バスで運転手の一日の走行距離規制が強まっていた。人気が高かった、東京発着で白川郷(岐阜県白川村)と下呂温泉を回るバスツアーは、運転手が2人必要になり、値上げもあって参加者が減っていた。
しかし白川郷を回らなければ、距離・時間が短いため運転手1人で可能となり、ツアー価格も抑えられる。そこで昨年度、東京からバスで下呂に直行し、まちあるきや、白川郷から移築された合掌造りの建物などがある「下呂温泉合掌村」訪問などを行う新しいツアーを、協会の働きかけによってはとバスで実施した。これが人気となった。アンケートを取ると、白川郷に行かなくとも合掌村では「ボランティアの方が親切でよかった」と好評だったそうだ。市直営の合掌村は昨年度、開園以来初の黒字となった。
下呂温泉合掌村
関東からの誘客を目指したもう一つの新しい施策がアンテナショップだ。協会では昨年9月から今年2月まで、吉祥寺に下呂アンテナショップ「いでゆ千年のかおり―白鷺伝説―」を期間限定でオープンした。この店でのプロモーションも来客につながったようだ。
今年度も、イギリスのEU離脱に伴う株価の下落、円高によるインバウンドの伸びの鈍化といった状況の中で、4~6月の宿泊客数は前年度比107.3%と目覚ましい伸びを見せている。
今年度も伸びが大きいのは関東(113.4%)。また、バスでの来客も前年度比129.9%と増えている。
昨年12月の会議の際、すでに円高の兆しがあり、今後インバウンドの伸びが鈍るのではないかと協会では考えた。また、翌年度はふるさと旅行券がなくなるため、個人客減少も予想された。そこで団体客への施策を行い、成果が出ている。
分析を基に計画した施策は、例えばこれから始まる貸し切りバスへの助成だ。関東発、9月1日から10月31日までの平日宿泊と宿泊施設での宴会を含むツアーについて、バス1台につき5万円を助成する。
他にも、平成26年度には日本観光振興協会の「魅力ある観光地域づくり推進事業」モデル地域として、来訪者調査や市場環境調査を行い、「カフェや横丁がほしい」「食べ歩きがしたい」という要望に応えて、温泉街で「湯けむり横丁にぎわいバザール」を始めた。
湯けむり横丁にぎわいバザール
このようにデータや社会状況を見て必要だと考える施策を打つことを、協会では繰り返し行ってきた。
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