フードツーリズムの時代

尾家建生大阪府立大学観光産業研究所客員研究員

2013.04.01

食が旅の主目的になる

 旅行に美味しい食べ物を求める人が増えてきた。旅先でその土地の美味しい料理や旬の味覚を楽しむのは、今までも一般に行われてきたが、それが旅行の目的や動機にまでなることは実は多くはなかった。

 旅行の目的は本来、温泉で保養する、美しい自然や歴史を訪ねる、紅葉や桜をめでることなどであったが、最近の観光客は昼食にはその土地のB級ご当地グルメを、夕食にはその土地の伝統料理や老舗の味、その土地ならではの旬の味覚を求め、美味しいものを食べることが観光の目的のひとつ、あるいは目的そのものになってきた。

 逆に言うと、美味しいもののない都市や地方には観光客は行かなくなった。これは日本だけでなく世界的な傾向であり、そういった観光現象はフードツーリズムと呼ばれている。

 現代人の味覚の多様化と成熟化には驚くべきものがある。例えば、にぎり寿司やバイキング料理は百花繚乱の味覚を一度の食事で味わえる特別な料理であるが、今どきの子どもたちは回転寿司屋やホテルで年に何回かはそのような百花繚乱の味覚を体験している。食品会社や外食産業は最先端の研究と技術で現代人が美味いと感じる味を開発し、スーパーマーケットには美味しさを追求して品種改良のされたコメや食材が並んでいる。

 その上、テレビにはグルメと旅の番組があふれ、インターネットではおよそあらゆるレストラン情報が入手でき、ある意味、国民総グルマン(食通)化が進んでいるとさえいえる。余暇としての食文化においても、筆者の住む大阪では2004年に函館で発祥した「まちなかバル」が昨年からフィーバーし、今や毎週末どこかで、あるいは同時に2から3地区で開催されている状況である。

食が地域の観光振興の力に

 観光振興を進めている町にとって、今や食べ歩きマップのない町は観光マップを持たないことにも等しい。美味しい飲食店は「第2の観光アトラクション」なのである

 。自然や歴史文化の古典的な観光資源の掘り起こしにも限界があり、食資源に観光活性化への糸口を模索している市町村は最近急増している。山形県庄内の人気の地場イタリアン・レストラン「アル・ケッチアーノ」のオーナーシェフ奥田政行氏は、「料理が地方を元気にする」をモットーとしているが、まさに美味しいものを求める気持ち、あるいはその欲望が地方を元気にする社会的な原動力となっているのである。

 だが、飲食店は観光客だけで成り立っているわけではない。美味しい店をこしらえるのは地元客である。その町の住民の美味しいものへのこだわりが「食」でのまちづくり、観光活性化を可能にする。フードツーリズムの時代は、今、始まったばかりだ。

著者プロフィール

尾家建生

尾家建生大阪府立大学観光産業研究所客員研究員

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