エコツーリズムが照射するもの 足元からの観光立国へ

海津ゆりえ文教大学国際学部国際観光学科教授

地域主体で進むエコツアー

 エコツアーはエコツーリズムの理念を背景とするツアー商品の総称である。
 エコツアーは①資源保護を優先、②地域が主役、③観光者を地域の理解者にする、④インタープリターの存在などの特徴に加え、安全管理や娯楽性、環境教育の要素をもった質の高い旅が求められる。

 こう書くとハードルが高そうだが、豊かな自然や地域性を愛で、御師等のガイド業を生んできた日本人の旅文化は、元来これらの諸要素を包含していたと言ってよく、エコツアーの実体は我々にとって決して目新しいものではない。実施方法や対象資源は地域によって多様である。ジオパークやロングトレイルの活用など新しい「しかけ」も生まれている。

 エコツアーの基盤となるエコツーリズムの推進には、観光事業者や地域関係者のみならず行政や専門家、研究者、インタープリターと呼ぶガイド、NPOなど、マスツーリズムの時代には登場しなかった主体の参画を求める。

 実は、このような体制はまちづくりとの親和性が高い。エコツーリズムへの取り組みを契機に、研究者や若者等のよそ者を招いてビジョンを描いたり、岩手県二戸市のように宝探しや地元学を始めたり、ガイド団体や南信州観光公社のように旅行業の資格をもつ観光協会を立ち上げるなど、各地で様々な戦略の工夫が始まっている。

 それに伴って日本各地の自然の美しさ、生活文化の奥深さ、食の美味しさなどの「宝」が再発見されるようになった。エコツーリズムに代表される地域主体の観光の推進は、地域の持続的発展に本質的に必要な運動であると言える。

 しかし現在、その運営は一部の人々の意欲やボランタリーな努力によって維持されている。運動を始めた第一世代はそれでよしとしても、それに依存している限り第二世代は続かない。

 今後、国や地方行政に期待したいのは優良事例をピックアップするだけでなく、各地の地域発観光の基盤整備を支えること、プロモーションや運営に雇用が発生する制度やしくみを創ることである。日本が「国の光を観る」ことができる観光立国となるために。

著者プロフィール

海津ゆりえ

海津ゆりえ文教大学国際学部国際観光学科教授

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