連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その2.ブランディング、なぜ必要?「目的の共有とブランド定義づくり」のハードル~
その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ
写真はロマネ・コンティのぶとう畑があるフランスのブルゴーニュ地方コート・ドール県南部の、ヴォーヌ・ロマネ村。ロマネ・コンティの1954年製造3,000mlのボトルは、インターネットの通販において1億円超で販売されていた
出典:Wikimedia Commons(撮影はOlivier Vanpé)
ブランドとは、信頼を積み上げる作業です。京都の老舗のノレンのようなものだと考えると良いでしょう。前回は、誰がブランディング事業をやっていくのかという事業主体のハードルについてお話をしました。つまり、「中長期的な視野を持ってブレナイで続けられる責任ある事業体制を整えられるかどうか、これが地域ブランディングの成功への第一歩だ」ということでした。今回は、ブランディングに関する関係者の共有意識の問題を取り上げてみたいと思います。事業推進においては、関係者がベクトルを合わせ同じ方向に向かって事業を行うことが大事なのですが、ブランディング事業においては「目的と目標」が共有されていないケースが多いと感じています。そして、ブランディング事業の心臓部に当たる「定義」の共有についても考えてみたいと思います。
ロマネ・コンティに見る 希少性から生まれる価値
ワインブランドの中でも最も評価の高いワインの1つに、フランスブルゴーニュ地方のロマネ・コンティがあります。このブランドの評価が高い理由は、ブランド定義における厳しい土(畑)の基準があるためです。ロマネ・コンティとは、フランスのブルゴーニュ地方の小さなヴォーヌ・ロマネ村にあるワイン製造会社が所有するブドウ畑の名前です。この畑は最上品質のブドウ種ピノ・ノワールを産出する特級畑(グラン・クリュ)に格付けされています。そこで栽培されたブドウのみを原料としてつくられる赤ワインがロマネ・コンティです。その畑は、たった1.8haしかなく、1年に6,000本しかつくれないため、世界一高価なワインとして知られています。
一般的に商品は、多くの人が欲しがるモノの中で、質が高く希少性のあるものほど高額で売れることが知られています。ロマネ・コンティは、世界中に需要があるワイン飲料の中で、特に優れた畑で栽培されたブドウでつくる希少なワインとして評価されています。これを、もし特級畑だけでなく周辺の畑で採れたブドウも原料として認めてしまえば、量は増えますが価格は下がることは自明です。ここが、ブランディングにおいてとても重要なポイントですが、意外と理解されていないようです。
各地域で、特産品を開発・販売し、地域活性化に活かしたいという志を持ってブランディングが進められています。しかしながら、多くの地域関係者は「たくさん売りたい」「関係者のみんなが平等になるように」という基本的な事業スタンスを重視するあまり、生産エリアを広くとったり、質についても低いレベルでブランド定義を決めようとする傾向があります。定義づくりをする上で大事なことは、その商品の優位性を中心に据えることです。すなわち、ブランドの定義づくりでは、凡庸な商品の差別化をむやみに目指すのではなく、本質的に持っている優位性を定義することが重要だということです。そして同時に、その地域(場)の遺伝子に基づく優位性を背景にすることが重要です。ロマネ・コンティは、ローマ人が拓いたブドウ畑と言われています。ワインに向いたピノ・ノアール品種が、世界で一番品質良く栽培できる土(畑)をブランド定義の基軸として据えているわけです。
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