地域の魅力を再発見 関係人口をつくるツアー「だめにんげん祭り」とは?

江澤香織フード・クラフト・トラベルライター

2018.05.16

酒を介してつながりをつくる、人の交流が旅の大きなテーマ

江澤香織 だめにんげん祭り
高知市内。おきゃく祭りのイベントに参戦。地元の人に混じり、皿鉢料理やお座敷遊びなど、高知の酒文化を体験(かなり潰れた)

 行き先はどこも「人ありき」です。今までに新潟、京都、青森、高知、能登、横手、飛騨高山、大分、佐賀など、全国各地へ行きましたが、どこも人のつながりから始まっています。現地でつながる人とは、主に地元を盛り上げようと活動している人で、だめにんげん祭りに共感してくれる人。県や市の観光関係の方々にご協力いただくこともあります。

 地域のキーマンとある程度信頼関係をつくってから、その土地を訪れることにしています。やや面倒な作業でもありますが、このつながりがあることで、旅の満足度が大きく変わります。旅行ツアーだけれど、ただその場所を訪れるだけではない、一歩踏み込んだ関わりを作れるよう工夫しています。地元との信頼関係ありきで、普通だったら入れない場所に入れてもらったり、地元の人しか知り得ない情報や体験をさせてもらったり、特別にカスタマイズされたイレギュラーなサービスをしてもらったりしています。コネを駆使して新たな観光資源を掘り出したこともあります。毎回開催している現地交流会(飲み会)は、人集めがなかなか大変ではありますが、少数でも来てくれる人は、何らかの目的を持って積極的に関わろうとする面白い人が多いため、その後も関係が続きやすいです。

 実は、参加者は今のところ一般募集をしていません。主催者、及び参加者からの紹介制が基本です。リピーターが多く、毎回20名前後の枠なのですぐ埋まってしまうということもありますが、紹介制の方が、スムーズにコミュニティに入っていき、深いつながりをつくりやすいと思います。紹介といっても一人参加が多いです。あと、やはり「だめにんげん」という言葉に抵抗を持つ人や引いてしまう人、間違った解釈をしてしまう人もいると思うので、今の時点ではワンクッション置いているという意味もあります。ただ、今後は紹介制だけではなく、色んな人が参加できるような仕組みを考えていきたいとも思っています。

 お酒という共通の趣味があり、そこを積極的に楽しもうという意気込みがあり、多少のことには寛容な人々が、旅先で一緒に飲んで語り合うことは、想像以上に人のつながりを深めます。だめにんげんになって良い、という無防備な開放感が、返って大人の自制心を芽生えさせるのか、ほどよいバランスで心地よくコミュニケーションをする人が多いです。

 参加者の中では、今まで訪ねた先を、その後何度も訪問したり、現地で関わった人に会ったり、その地域のものを見つけたら買ったりしている、という話をよく聞きます。「関係人口」が今話題になっていますが、酒好きというハードルの低い入り口から交流が始まっているせいか、その土地と再び関わるきっかけをつくりやすいと実感しています。旅の後も現地に気軽な声がけがしやすく、愉快な親近感があり、酒をキーワードに長くつながる地域が多く見受けられます(ちなみに関係人口を提唱するジャーナリスト・田中輝美さんは以前からの友人ですが、最初の島根ツアーでは、彼女にもご協力をいただいていました)。

 そんなわけで名前はかなりふざけていますが、ツアー内容は毎回こだわって行き先を選別し、土地の魅力と同時に人の魅力も重視しています。人の交流を大きなテーマにした旅は、探すと意外とないものです。例えば婚活とか研修(勉強)などの旅は、人の交流はあるかもしれませんが、ちょっと頑張らなければならず、ハードルが上がります。酒をとっかかりにしたゆるい入り口で、蓋を開けたらディープに地域を体験でき、楽しくて気づいたらその土地に離れがたい友達ができて、また会いたいと思う。そういう旅はもっと大きな枠で幅広く人々を気軽に巻き込み、得るものも大きいです。

 思い切って自分を「だめにんげん」と宣言することで、変なプライドを外し、壁をつくらず、低い敷居から一気に深いところまで潜り込むことができます。お酒を軸にしてはいますが、もしかしてお酒がなくてもこの雰囲気はつくれるように、最近は感じています。実際の内幕を明かすと、自分たちに大した儲けは出ていません。それでも続けたいと思うのは、地域との交流に意味があると思っているからです。今後も、人の交流をテーマにした旅を考えていきたいと思っています。

江澤香織 だめにんげん祭り
秋田県・横手市。いぶりんピック(いぶりがっこの大会)上位入賞の生産者を交えて交流会。いぶりがっこの食べ比べと販売を行う

江澤香織 だめにんげん祭り
石川県・輪島市。輪島塗の工房「キリモト」を見学し、漆器の作り方を学ぶ

著者プロフィール

江澤香織

江澤香織フード・クラフト・トラベルライター

旅先では町歩き、はしご酒、土産探し、珍スポハンティングがライフワーク。
著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)等。
酒蔵・酒場・酒屋めぐりをメインとしたツアー「だめにんげん祭り」主宰。

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