観光客の安全を確保するために 津波避難対策の検討を事例に
情報を正しく伝え、行動を促す
そのため、大津波警報の発令等の重大な局面において、観光客に対して、初動期に伝えるべき情報を事前から定めておくことが極めて重要である。
災害発生時、あるいは災害が発生しそうな危機的な状況において、情報提供のあり方として、表1にみられる10項目の注意すべき内容が挙げられる(注1)。これらをもとに、多くの観光客に向けた地震発生後の津波避難に関するアナウンスと情報発信の留意点を整理していく。
表1 効果的な警報の特性
(1)情報源の信憑性
津波避難に関する情報は、アナウンスする人の判断・感覚で説明しているのではなく、公的な情報(例えば、気象庁発表の大津波警報が発令されていること等)に基づいていることを示すことが望ましい。
(2)首尾一貫した内容であること
矛盾した内容、前に述べたことと相違する内容を述べると、説明を聞く観光客はその情報を信用しなくなる割合が高まるとともに、混乱を引き起こすことにつながる。
(3)正確であること
状況に即して正しい内容を伝達し、不確かなことは述べないようにする。説明内容の中に疑われるようなことが含まれていれば、正しい情報さえも聞いてもらえなくなるかもしれない。例えば、他の地域でも地震被害が発生している等の状況が不明な場合には、そのようなことには言及しないようにする。
(4)明確であること
「できるだけ早く」等の文言は、人によって受け取り方が違うので、具体的に説明したほうがよい。また、「高いところへ」ということも観光客にはわかりづらいので、向かうべき方向を明確に説明することが求められる。その際、難しい用語、地元でしか通じない言葉は使わないようにし、シンプルな内容にすることが求められる。
(5)確実であること
起こりうる可能性がある災害の様相については、「~かもしれない」ではなく、「~ことになる」と言い切ることも求められる。曖昧な内容、多義的な情報では、人は安全側に受け取りたい心理的な傾向がある。例えば、その場所までは津波が来襲しないかもしれない状況であっても、「津波が到達する」と言い切っても構わない場合もある。
(6)充分であること
過不足のない情報であることが求められる。地震が発生し、津波が残り何分で到達すること、浸水深は何メートルであること、そのことによってこの場所ではどういう状況になるか、ということを伝える。津波浸水深については、何メートルだけではイメージしづらいので、立っている人は簡単に流されるなど、予測される状況も含めて伝達したほうがよい。
(7)取るべき行動を示すこと
進行している状況よりも、取るべき行動を伝えることを優先させる。また、それに対する猶予時間(津波到達まで残り何分)、どこに向かって、誰に従って行動するべきか、ということを示す。
(8)繰り返し発信すること
同じ情報であっても、人は繰り返し聞くことによってその内容を正しく把握できるようになる。また聞き手にとっては、繰り返し情報が発せられることによって、その内容を信頼するようになる。
(9)特定の情報であること
近接性の高い情報であるほど、人はそのことを我が事として認識する傾向にある。そのため、広い範囲に影響が及ぶという一般的な情報よりも、具体的に特定の区域(例えばこの観光地、この海岸、この施設など)を示すほうが効果的である。
(10)複数の情報発信源から情報を提供すること
1つのチャンネルだけでなく、放送設備、誘導員、エリアメール、ラジオ等、2つ以上のチャンネルから同じ内容の情報が伝えられることによって、多くの人に聞いてもらえる可能性は高まる。それとともに、複数の情報発信源から同じ内容を聞くことによって、人はその情報を信じようとする傾向は強まる。
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