観光客の安全を確保するために 津波避難対策の検討を事例に
観光地における避難の課題
時として、突発的な災害が観光地を襲うことがある。
国内の地震災害を例としてみれば、近年では、熊本地震、東日本大震災が発生した。また、御嶽山噴火災害のように、多くの登山客が犠牲になった火山災害もある。国外においても、スマトラ島沖地震では、住民の方々とともに多くの観光客が犠牲になった。
一方で、国内外において、今後も多くの災害が発生すると予測される。これらの災害に対して適切な対策を講じておくことは、観光地においても喫緊の課題である。
そのため、ここでは、地震・津波対策を事例として、避難の課題を考えることにする。
特に、海溝型地震の発生によって大きな揺れが長く続いた後、数分から数十分の間に津波が来襲すると予測されており、津波浸水想定区域から安全な区域に大量の観光客に移動してもらわなければならない状況を想定する。
観光地における避難時の課題の特徴として、以下の3点を挙げることができる。
1)観光に来ている人たちは、地域の災害の危険性をよく知らない
2)観光に来ている人たちは、土地勘があまりない
3)多くの人たちがある特定の場所に集まっている
地震が発生したとき、何の情報もなければ、観光客は津波が来襲する可能性のあることを認知できず、できたとしてもどこを通ってどこまで避難すればよいのか、判断できない状況に陥ってしまう。また、多くの人たちがある特定の場所に集積している可能性があり、群集となって移動する場合、さまざまな危険性がつきまとうことになる可能性もある。
このような中でも、いざ大きな地震が発生すると、観光客を安全な場所まで避難できるようにすることが求められることになる。
東日本大震災の被災地域 2011年4月22日 筆者撮影
想定されるのは、集団パニックより動かない人々
巨大地震が発生し、大きな揺れを感じたとき、多くの人たちはパニックとなり、われ先にと逃げ惑うようになる、というような状況になる可能性は極めて低い。
一般的に、危機的な事態において集団としてパニックになるような状況は、明示的な危険が存在する、脱出路が限られている、規範が崩壊している、という3つの条件がすべて揃ったときに発生すると考えられている。このことは、過去の災害や事案発生時の調査結果から知られていることである。
地震が発生した後、津波の来襲の様相が映像として確認できない状況では、むしろ、どのように行動してよいかわからず、その場に多くの人たちが居続けてしまう可能性の方がはるかに高い。
観光に来ている人たちの多くがパニックになることを想定して避難方法を検討すると、間違った計画を策定しまう可能性もある。この点には留意しておく必要がある。
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