自分の思いと社会の要請をどうミックスさせるか。「染織ユトリ」主宰稲垣有里さんと若手職人グループするがクリエイティブの、視線を意識した挑戦

2018.04.16静岡県

かっこいい職人の姿を発信

 するがクリエイティブが目指す、時代に駿河のものづくりを伝えることに、観光はどんな役割を果たすことができるだろうか。稲垣さんは次のように話す。

稲垣:江戸時代以来、お伊勢参りやお遍路など、人が動くことで名物や名所などの話が広がり、文化がつながってきたと思います。
  私たちはもので文化をつなぐことができれば素敵だと思っています。静岡に観光に来る目的は例えば、富士山を見ることがありますが、そのときに食べたもの、泊まった場所など、自分がリアルに動いた過程も旅の重要な要素だと思います。目的は急にはつくれませんが、過程はつくれると思います。

 職人の「もの」をその「過程」にする試みの一つが「おんぱく」だ。稲垣さんを含め何人かのメンバーは、藤枝市で行われている「藤枝おんぱく」や静岡市での「駿河東海道おんぱく」に参加している。オンパクとは、地域の資源や人材を生かす小規模な体験・交流型のプログラムを一定期間に集中的に開催するイベントで、大分県別府市の「ハットウ・オンパク」に始まり、国内外の多くの地域で開催されている。
  稲垣さんは今年、日本茶インストラクターの松村恭子さんとコラボし「静岡の在来種のレアなお茶を楽しみながら作るお茶染めストール」というプログラムを行った。地元産のお茶でストールを染めることに加え、静岡の人も飲んだことのないような、レアなお茶を飲むことを加えて、地元ならではのプログラムになるよう「ひとひねり」している。

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お茶染めストールを展示し、プログラムをPR

 するがクリエイティブでは観光に限らず、職人の仕事を発信することに力を入れている。

稲垣:メンバーは、普段はあまり観光のことは意識していないと思いますが、静岡は若い人たちが頑張ってやっているという雰囲気を見せたいと思っています。そこから、静岡に戻ってやりたいと思う人が出てくるといいですね。自分たちが若いころのことを思い出すと、かっこいい作品をやっている人がいれば、自分もそこでやってみたいと思うのではないかと思います。そういうものを見せていける団体でありたいです。

 若い人の目に触れて、かっこよさそう、仕事になりそうと思ってもらえるように、私たちが表に出て活躍している感じが出せるよう、めげずに頑張らないとねと話しています。

 「かっこよさそう」と思ってもらう試みの一つが、現在静岡市文化・クリエイティブ産業振興センターで開催中の「〈WANTED〉若手職人集団・するがクリエイティブ展」だ。ポスターは、メンバーが並んだかっこいいビジュアルに仕上げ、会場の外からも見えるように大きく掲げている。

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  作品はもちろん、「職人の部屋」と題した、道具なども用いて仕事風景を伝えるスペースを設けて、職人を身近に感じてもらう工夫もしている。トークショーも予定しており、ワークショップは予約で早々に満席になるなど好評だ。

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会場の様子

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挽物の百瀬聡文さんの道具

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写真で職人の仕事を紹介

 またこの展覧会直前には、するがクリエイティブ×静岡伊勢丹 販売会「静岡のある暮らし」を行っており、今後も精力的な活動が見られそうだ。

 稲垣さん自身は、2月に新しく「子ども手芸部」を立ち上げた。5歳以上の子どもを対象に、月1回、編み物やフエルト、染物など、さまざまなものづくりを行っている。

こども手芸部のプロモーション映像

稲垣:昔は母親や祖母が手芸を教えていたけれど、今は母親はできない、祖母は遠くに住んでいるなど、なかなか家で習う機会がありません。絵や造形の教室はあるけれど、手芸が面白いという子の受け皿があまりないことに気付き、だったらうちでやろうと思いました。大人でも小さい子でも、いいものができたほうがいいと思っています。
DSC_0423-2 楽しく編み物の基礎が学べ、初心者でもきれいに仕上げやすいスターターキットを開発中

 他にも、スカイプを使って遠隔指導、織り方を説明する映像作成など、今後やりたいことはまだまだあるという。そして、着物の制作も時期を見て再開するつもりだ。

 「伝統技術の継承に文化、産業、観光の視点を 鵜飼舟プロジェクト」の記事では「需要の創造」という言葉があったが、するがクリエイティブのメンバーはより積極的に他の人の話を聞き、他者の視線を取り入れながらものづくりをしているようだ。稲垣さんのように、ものだけでなく教室や講座という形に結実する場合もある。それらは、誰かを喜ばせたい、社会に貢献したいというシンプルな思いに突き動かされたものなのだろうと、稲垣さんの話を聞いて思う。そこに自らも喜びを感じられるから続けられるのだ。
 もちろん、先人から受け継いだ確かな技術がもとにあり、自らと向き合いながら作品を作る時間が、その人の「テイスト」を生み出すことにもつながっているのだろう。そしてその「テイスト」を見出して育てるところに、また他者の視線がかかわる。
 また、後継者を育成する上では、ものだけではなく自分たち職人への視線も考え、未来の職人やその周辺に向けて、かっこいい、魅力的な職人の姿を発信している。
 伝統工芸を観光に生かす場合にも、確かな技術や「本物」を感じられない体験プログラムでは、そのとき楽しかったとしても、伝統工芸やその地域の魅力は伝わりづらいのではないか。また、持ち帰った後も持ち歩けるなど、その人の生活の一部になるようなものをお土産にできれば、旅の後も伝統工芸、そして地域の魅力が広まる機会ができる。
 伝統工芸と観光は、お互いを盛り立てることができる。観光客が伝統工芸をお土産に買う、という需要は今もあるが、それにとどまらないことがそれぞれのさらなる盛り上がりにつながるのだろう。

〈WANTED〉若手職人集団・するがクリエイティブ展
会期:2018年4月22日(日)まで
時間:10:00~21:00
会場:静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター(静岡市葵区七間町15番地の1)1Fギャラリー

リンク:駿河づくり(するがクリエイティブホームページ)
リンク:染織・手芸・こども造形教室 ユトリ・アート&クラフト

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