井波彫刻の職人と交流できるゲストハウス「BED AND CRAFT」が誕生  ―ゲストハウスを起点に地域全体で観光活性化を目指すコラレアルチザンジャパン―

山川智嗣建築家

2017.05.22富山県

井波彫刻の職人と交流できるゲストハウス「BED AND CRAFT」が誕生  ―ゲストハウスを起点に地域全体で観光活性化を目指すコラレアルチザンジャパン―
築50年の元建具屋を改修した「TATEGU-YA」外観 ©Kosuke Mae

 富山県南砺市に、伝統工芸の井波彫刻体験を核とするゲストハウスBED AND CRAFT(ベッド・アンド・クラフト)がオープンした。BED AND CRAFTは宿泊するだけでなく、井波彫刻の職人に弟子入りをし、クラフト体験できるのが最大の特徴である。運営するのは、富山市生まれの建築家・山川智嗣(やまかわ・ともつぐ)さん。
 山川さんは中国の上海での活動を経て、南砺市へ移住し、建築家や彫刻家など職人集団でつくる任意団体コラレアルチザンジャパンを立ち上げて、空き家対策と観光活性化に取り組んでいる。  

 BED AND CRAFTをオープンすることになった経緯や、どのようなまちづくりを目指しているのかについて、山川さんに話を伺った。

これからの建築家像を考え富山に移住   

 山川さんは明治大学建築学科を卒業後、2009年から上海の設計事務所に入社し、チーフデザイナーとして公共建築や商業建築など大規模なプロジェクトに携わった。仕事にやりがいを感じていたが、次第に人々のライフスタイルに関わる仕事をしていきたいと考えるようになり、3年後には独立することを決意、建築からインテリア、グラフィックデザインまでトータルでコーディネートするトモヤマカワデザインを立ち上げた。中国人や上海の日系企業に勤務する日本人などから依頼を受け、使う人の声を反映させる仕事に喜びを感じていく。 そんな中、日本人からの依頼の方が多くなり、山川さんは日本へ戻ることを決意した。

山川:建築家は東京に住んで日常からかけ離れた奇抜な住宅を作り、雑誌にバンバン載る…ということをイメージされがちですが、僕にはそうした道はピンときませんでした。そんな時、故郷の富山では人口減少で空き家が増え、たくさんの家が壊されているということを知ったんです。建築家の活躍の場は都市ではなく地方にあると思い、東京ではなく富山へ行こうと思いました。

 移住先に思い浮かんだのが南砺市井波だった。井波は人口8,000人のうち200人以上の人が彫刻家として活動している珍しいまちである。

山川:井波には親戚が住んでいるので、小さいころからよく遊びに行っていました。600年以上の歴史を誇る瑞泉寺(ずいせんじ)や石畳の通り沿いには彫刻工房が立ち並び、昔ながらの建物が残されている井波が大好きでした。そんな経緯から2014年11月に移住しました。

井波彫刻の職人と交流できるゲストハウス「BED AND CRAFT」が誕生  ―ゲストハウスを起点に地域全体で観光活性化を目指すコラレアルチザンジャパン―
瑞泉寺から石畳が伸びる八日町通り。井波彫刻の工房が軒を連ねている ©Kosuke Mae

集客の鍵は彫刻工房にあり

井波彫刻の職人と交流できるゲストハウス「BED AND CRAFT」が誕生  ―ゲストハウスを起点に地域全体で観光活性化を目指すコラレアルチザンジャパン―
井波彫刻は彫刻家がデザイン、下絵、仕上げまでの工程をすべて行う。神社仏閣の装飾品や欄間(らんま)などの装飾が中心。龍や獅子頭などを彫るのが特徴で、鑿や彫刻刀だけで滑らかな木肌に仕上げる

 実際に暮らしてみると、瑞泉寺周辺は人通りが少なく、賑わっていた昔とは印象が違っていた。ほとんどの観光客は休憩地として井波に立ち寄り、近隣の観光地へ移動していたのである。また、井波には宿泊施設が1軒しかなく、観光客から宿泊できないまちというイメージを持たれていることが、滞在時間が伸びない要因の一つではないかと山川さんは考えた。

山川:井波の歴史や文化にゆっくりと触れてもらうために、素泊まりのゲストハウスをつくろうと思いました。しかし、それだけでは他地域との差別化は難しいので、井波でしかできないことを提供するために、地域の人と話をして模索していきました。

 そんな時に山川さんは若い世代の彫刻家たちが、彫刻の技術でアニメキャラクターを作品にしたり、イベント会場で彫刻体験を開くなど、井波彫刻の需要拡大に向けてPRに取り組んでいることを知る。ところが彼らは「届いてほしい人にPRが届いていない」と悩んでいた。そうした声から導きだされたのが、ゲストハウスの宿泊者に彫刻家の工房でクラフト体験をしてもらうことだった。

山川:工房に来てもらうことが最も重要なのです。工房には200本近くの鑿(のみ)や彫刻刀が置かれ、精魂込めた作品を展示しているので、職人さんの仕事ぶりを伝えることができます。クラフト体験では自然な流れでお客さんと会話をするので、職人さんの人柄も伝わります。もしかしたら作品を買ってくれる人がいるかもしれない。そうしたPRを僕が担当するので、一緒に井波彫刻を盛り上げましょうという話になりました。

 そこからゲストハウスのオープンに向けて大きく前進することになる。

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