旅行者から見た魅力ある世界遺産とは? キーワードは3つの「M」
Message――その地に込められた「メッセージ」
3つ目はメッセージ(Message)です。世界遺産が他の観光地と違うのは、その国の歴史や自然を語る上で重要なメッセージをもっているということです。
北欧スウェーデン、牛が草を食む広大な牧場に「ヴァールベリの通信所」はあります。巨大な鉄塔が6基、シンプルな建物がぽつんと1棟。見た目では価値が分からない世界遺産でした。
ガイドツアーに参加すると、建物の中には機械がたくさん並び、20世紀初めの技術の粋を集めて作った大きな発電機を動かし、モールス信号を送る様子を見せてくれました。当時国は貧しく、4人に1人が北米へ移住しました。ここは、遠い異国に住む親族らにメッセージを送りたいという思いから作られた通信所だったのです。1996年の閉鎖の際、最後の放送を聴いた人から声が上がり、保存することになったそうです。ガイドを務めたのは、当時働いていた人たち。懸命に説明する彼らの熱意と目の輝きが、いかにこの通信所が重要なものだったかを物語っていました。
ヴァールベリ通信所のガイドさんたち
旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナの「モスタル旧市街」には、この町のシンボル、オスマントルコ時代の橋が架かっています。しかし、この橋は、1992年に旧ユーゴから独立宣言したことで始まった内戦で崩壊し、2004年に修復されたものです。
モスタル旧市街にかかる修復された橋
内戦は、独立に反対するセルビア人との戦いに、イスラムとカトリックの宗教対立も加わって、20万人の死者と200万人の難民を出しました。モスタルの川を挟んだ山の上には十字架が立ち、反対側にはモスクのミナレットがそびえます。以前は橋を行き来していた2つの民族が、両岸に分かれて暮らしているのです。橋の復活は、人の往来だけなく、人々の心も繋ごうとしているのだと思いました。
そこに込められたメッセージを読み解くことこそに、平和な地球の構築を目指すという世界遺産の意義があり、人々の心を打つのです。
Meet(出会い)が旅の印象を良くし、望外のMotenashi(もてなし)が楽しみや驚きを導きます。そして感動を伝えるMessage(メッセージ)。この3つの「M」がそろった時、新たにMiryoku(魅力)の「M」を作り出してくれるでしょう。
■著者プロフィール
旅する世界遺産研究家、日本イコモス国内委員会会員
愛媛県八幡浜市出身、愛媛大学卒。(株)愛媛朝日テレビ開局に伴い、アナウンサー第一期生として入社。その後、世界遺産に魅せられ、50カ国以上、380カ所の世界遺産を訪問。奈良、姫路、京都に住まいを移し、世界遺産の魅力を研究。その成果を講演会や執筆活動を通じて、全国に伝えている。現在、2児の母でもある。
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