温泉観光地活性化への取り組み 保養・療養と短期滞在

大野正人高崎経済大学地域政策学部観光政策学科教授

2013.07.16兵庫県栃木県

温泉観光の課題

 国民が行ってみたい旅行タイプでは温泉旅行は不動のトップを保っている。
 しかし、国内観光旅行先の過去20年間の推移を見ると、温泉観光地のシェア低下が続いており、かわって、都市観光とテーマパーク(TDR)、沖縄リゾートが増加傾向にある。都市観光は「まちあるき」という新しいジャンルを打ち出し、テーマパークはファンタジーという究極の非日常を演出し、沖縄リゾートはビーチと琉球という異文化体験が人々を引きつけており、いずれも、「その観光地でどんな時間の過ごし方ができるのか」という明確なイメージ提案ができている。

 これに対して、温泉地が提案する時間の過ごし方は、依然として旅館での和の文化体験と、豪華料理と密度の高い“もてなし”により、1泊2日に凝縮された贅沢さに留まっており、ようやく露天風呂に代表される湯治文化や、保養休養のイメージが打ち出されつつあるに過ぎない。
 そして、この高齢化社会とストレス社会で最も強みとなるはずの保養休養コンセプトも、その前提となる滞在利用が進まないことで強みを発揮できずにいるのが現状である。

 この滞在利用が進まない要因を休暇制度の不備に求める考え方もあるが、既に海外旅行や沖縄旅行がこれだけ活性化していることは、それなりに2から3泊の短期滞在を多くの人が実現していることを示している。

 この課題に対して、温泉地では街並み景観や自然環境を復元する政策や、様々な滞在プログラム開発という政策が行われているが、これらの政策と同等以上に必要なのは宿泊施設の滞在対応を促進する政策であろう。
 現在の温泉地の旅館は滞在に必要な快適な客室を得ようとすると、豪華な夕食がセットとなっているが故に、滞在時の食事がオーバースペックとなっている。

 これを解決するためには旅館の業態を、都市のホテルと同様に、室料中心の業態に転換することが必要であるが、このような業態転換には当然ながら料飲部門の縮小(滞在には過剰サービスとなる豪華夕食を提供するための宴会場の償却、仲居などの要員数の軽減)という財務・損益の構造改革が必要となる。

 そして、それを妨げているのがバブル期以降、急激に悪化した旅館ホテルの財務構造にあり、さらに、これらを事業再生するに当たって、金融機関を含めた当事者は滞在市場の開拓というチャレンジを避けて、既存旅館ホテルと同様の1泊2日旅行市場に再参入する動きをとり、これがまた同じ業態同士の競合を激化させているのである。

1 2

スポンサードリンク