温泉観光地活性化への取り組み 保養・療養と短期滞在

大野正人高崎経済大学地域政策学部観光政策学科教授

2013.07.16兵庫県栃木県

広がる新しい試み

 このような状況のなかで、いくつかの新しい試みが行われている事例を紹介しよう。

 一つは、倒産した旅館の事業再生を同じ1泊2食型の業態として再生するのではなく、客室部分のみを快適な滞在型客室として再生し、その運営を地域内の旅館が受け持つという事業形態である。

 那須・板室温泉の大黒屋旅館では、閉鎖された近隣の旅館3棟を買収して客室部分を滞在客室として改装し、その運営管理や食事と大浴場の提供を母体となる大黒屋旅館で行うことで、自館のリピーター客の滞在利用を促進している。

 また、有馬温泉では閉鎖された公的宿泊施設を旅館組合が運営を受託して、「1泊朝食+温泉街の外湯利用券付商品」(これを“湯泊まり”と称している)として販売している。同様の“湯泊まり”商品は地元の中小旅館も協働で販売しており、そのキーファクターとなる「高品質で個性ある飲食店舗の企画開発」を、地域の旅館経営者が指導している。

 このような「泊食分離料金+外湯+温泉街の個性ある飲食店」という都市に類似した料飲提供形態とともに、もう一つの事例として挙げられるのが鹿教湯温泉の斉藤ホテルである。

 ここは朝夕食をブッフェで提供する1泊2食販売の旅館であるが、泊数が多くなるほど室料を逓減させる料金体系を導入しており、加えて滞在客への日帰りツアーや、温泉療養指導士の資格を持つ経営者による健康作りプログラムの提供等により保養・療養の滞在客を誘致している。
 また同温泉地の複数の小規模旅館も、夕食に日替わり定食を提供する滞在商品を販売している。
 そして、これらの背景となっているのが健康プログラムを提供するクアハウスと療養リハビリを行う温泉病院の存在であり、このような地域での療養リハビリ温泉地としての機能提供と、個々の事業者の滞在客対応が車の両輪となって地域の滞在利用が促進されている。

 これからの旅館ホテルの事業再生策は、今までと同じ1泊2日旅行対応として個別に取り組むのではなく、滞在市場を開拓するための業態転換と地域の滞在魅力作りとを連動させた地域ぐるみの面的再生の仕組みを、当事者である事業者・金融機関と地方自治体とで協働して構築していくことが必要である。

著者プロフィール

大野正人

大野正人高崎経済大学地域政策学部観光政策学科教授

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