「モノの価値をお客さまに伝えるにはどうするか」燕三条 工場の祭典が生まれた背景  メソッド・山田遊さんインタビュー(後編)

山田遊株式会社メソッド 代表取締役

2017.12.12新潟県東京都

来てくれた人にどう見えるかを客観的に考える

「燕三条 工場の祭典」。包丁やカトラリーなど金属加工品の一大産地である燕三条の工場が開放され、モノが作られる過程を見学できるイベント Photos:Ooki Jingu
「燕三条 工場の祭典」。包丁やカトラリーなど金属加工品の一大産地である燕三条の工場が開放され、モノが作られる過程を見学できるイベント Photo:Ooki Jingu 

――モノづくりの現場に人を呼んで、実際にプロセスを見てもらうというアイデアはどうやって生まれたのですか。

山田:庖丁メーカーのタダフサの社長で、燕三条 工場の祭典の初代実行委員長を務めた曽根忠幸さんがすでにそのアイデアを温めていました。以前から地元の小学生向けに工場見学を開催したりはしていたのですが、その流れをもっと推し進めたいと。

 また、越後三条鍛冶まつりという地元のイベントが年に1回開催されていて、それぞれのメーカーがブースに出展し、ワークショップを開いたりもしていました。その鍛冶まつりの予算を利用して、イベント自体をリニューアルし、もっと多くの人に来てもらおうという話になりました。

 僕自身も、モノづくりが盛んな墨田区で以前からコラボレーターとして関わってきた中で、工場見学をイベント化して人を呼んだら結構集まるんじゃないかと思っていました。

 大手メーカーのモノづくりを取り上げたテレビ番組も人気を集めていて、特に東日本大震災以降は、普段自分が手にしたり、口にしたりするものがどのように出来ているかに興味を示す人が徐々に増えてきた印象もありました。

 曽根社長や僕たちの考えに、市の職員の方々や市長も「面白い」とのってくれて燕三条 工場の祭典は動き始めました。いろんな出会いやタイミングが重なったんだと思います。

 東京スカイツリーの足元にある東京ソラマチ内の「産業観光プラザ すみだ まち処」の商品ディスプレイを担当。東京・墨田区はものづくり工場が多い街だ。東京スカイツリーだけでなくものづくりの側面も知ってもらおうと、墨田区は地元産業の情報発信に力を入れている
東京スカイツリーの足元にある東京ソラマチ内の「産業観光プラザ すみだ まち処」の商品ディスプレイを担当。東京・墨田区はモノづくり工場が多い街だ。東京スカイツリーだけでなくモノづくりの側面も知ってもらおうと、墨田区は地元産業の情報発信に力を入れている

――工場開放のイベント自体は他の地域でも見られますが、「燕三条 工場の祭典」はその中でも抜きん出ている印象があります。告知物などに使われているピンクのストライプも印象的です。

山田:始める前から「しっかりやれば当たる」と思っていました。この「しっかりやる」ことがどういうことかというと、予算やコンセプトもそうですが、ある種の公共性や本気度です。内輪の活動の延長線上ではなくて、来てくれたお客さまにどう見えるか、どんなイメージを持ってもらえるかを考えて、そこにデザインやクリエイティブの力を反映させるように努めました。

 アートディレクションとグラフィックデザインはSPREADさんにお願いしました。天気が曇りがちな土地柄、燕三条のまちの色はちょっとさびしい感じがあったので、イベントの時はハレの日らしい鮮やかな色を使いたいなと。色使いに定評があって、新潟に縁のある彼らに依頼したところ、このピンクストライプが提案されました。

DM、ウェブサイト、Tシャツ、会場構成などあらゆるところで使われているピンクのストライプ Photos:Ooki Jingu
DM、ウェブサイト、Tシャツ、会場構成などあらゆるところで使われているピンクのストライプ Photo:Ooki Jingu

山田:金物の産地ではよく黒や赤がキーカラーとして使われています。黒は鉄、赤は炎を意味しているのですが、その色はちょっと重々しいねと話していました。

 炎の色には赤だけでなくオレンジや青色もあるし、鉄も黒というよりはむしろシルバーに見える。そんな黒と赤のキーカラーを変換したのが、ピンクとグレーのストライプでした。黄色と黒の斜め45度のストライプは危険を伝えるときにもよく使われています。

 産地らしさを残しながら、ハレの日らしい鮮やかな色がほしいという僕らのオーダーに見事に応えてくれました。

――Tシャツなどにも使われていて、よく目立ちますね。

山田:このストライプのインパクトだけで興味を示してくれる人もいますし、当然、認識もされやすくなっています。視覚的なデザインは非常に大事ですが、ビジュアルを何となくの気分で作るのではなく、外に向けて論理的に説明できるようにすることも大切です。

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