「店を通じて何を成し遂げたいか」モノを売るために必要なコンセプト作り  メソッド・山田遊さんインタビュー(前編)

山田遊株式会社メソッド 代表取締役

店にはお客さんに共感してもらえるコンセプトが必要

――店の立ち上げの場合、どんな店にするか計画がかなり練られた状態で依頼が来るのでしょうか。

山田:最近は「場所は決まっているが、何をすればいいかわからない」という漠然とした時点からの相談が多いですね。今まで飲食業をやっていて、物販も始めたいといった相談もよくあります。

 ただ、話を聞くと、店によって何を成し遂げたいのか、つまり目的やミッションが欠けていると思うことが多いです。もちろん売り上げを伸ばすことは大切ですが、それでは目的になりません。「売り上げを伸ばしたいので、買ってください」と言っても誰も見向きもしないですからね。やっぱりお客さまに共感してもらえるようなコンセプトが必要なんです。

 小売の世界は、長い間商品に頼ってきました。お店で取り扱っている商品に自分たちのアイデンティティーを代弁させてきたと思います。このブランドを扱っているから、うちの店はこんな客層をターゲットにしていますという風に。ただ、モノが売れない時代に入って、それでは続かないということに気づいてきたのではないでしょうか。

 本来なら、「こういうライフスタイルを提案したい」というコンセプトを自分たちが持って、「だからこのブランドを置きたい」という順番で商品を選んでいくべきなんです。その順序が違っていたというか、少なくともお客さまには明快に伝えられていなかったと思います。コンセプトをはっきりさせること、自分たちが目指すものを明確にすることが、とにかく大事だと考えています。

――山田さんの独立時の仕事である国立新美術館のショップ「スーべニアフロムトーキョー」からはそうした視点が感じられます。

山田:スーべニアフロムトーキョーの運営元はDEAN&DELUCAやCIBONE、TODAY’S SPRECIALなどの店舗を運営する株式会社ウェルカムさんで、外部のメンバーとして、ブックディレクターの幅允孝さん(BACH代表)や、僕が呼ばれました。

 国立新美術館がオープンする4年前に六本木ヒルズができ、その中にある森美術館のミュージアムショップでは、草間彌生さんや村上隆さんら現代美術の作家作品をグッズ化していていました。

 そんなミュージアムショップが近くにある中で、国立新美術館のミュージアムショップはどうあるべきかを考えるときに、ウェルカム代表の横川正紀さんの「ミュージアムショップらしくないミュージアムショップがいいよね」という言葉が、結果としてコンセプトの基軸になりました。

 「ミュージアムショップらしくない」を突き詰めていくと、「ミュージアムショップとは何か」「美術館・博物館は何か」という問いになる。その議論の中で、僕たちは感覚的に言葉を変換して美術館は「観光地」だと言い切っていたのでしょう。パリでもロンドンでもニューヨークでも、ガイドブックの観光のページには美術館が出てくる。国立新美術館も東京の中心にある。だから「東京のお土産屋を目指そう」と考えた。東京のお土産屋ならこんなモノを売ろうと、コンセプトから商品を展開していきました。

 スーべニアフロムトーキョーで良い評価をいただいたことが僕の独立のきっかけにもなったのですが、今考えても、非常に明快なコンセプトだと思います。だからこそ、初期の仕事からコンセプトメイキングを大事にしていて、それをずっと続けてきました。細かいモノ選びから入ってしまうと、なかなか優れたコンセプトには行き着きません。

国立新美術館のミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」。古いものと新しいもの、エレガントなものとジャンクなものなど、あらゆるものが渾然一体となっている街・東京を、編集によって鮮やかに体現。一般的なミュージアムショップでは売られていないようなグッズも取り扱っている
国立新美術館のミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」。古いものと新しいもの、エレガントなものとジャンクなものなど、あらゆるものが渾然一体となっている街・東京を、編集によって鮮やかに体現。一般的なミュージアムショップでは売られていないようなグッズも取り扱っている

――店のコンセプトをしっかり作って、共有することが大切なんですね。

山田:その方が店の方針がブレないと思っています。例えば、高級店が低価格帯の商品を扱ったら格が落ちたと言われてしまいますが、しっかりとしたコンセプトのある店にはそういった間違いがほぼ起こり得ません。コンセプトがある方が明快で、扱うモノも決めやすくなる。コンセプトは扱う商品の領域、幅や奥行きを決める大枠のルールにもなります。

 また、店名もメッセージを伝える上で大事だと思います。

――コンセプトを作ることの大切さは分かっていても、難しいと思う人は多そうです。

山田:実際にクライアントと接する中で、やりたいことはあるけど言葉にできなかったり、口では言えても文章で明文化できない状況はよくあります。また、生み出したコンセプトが共感してもらえるかどうかの難しさもあります。一歩引いた立場で、その言語化のお手伝いをするのも、僕たちの仕事だと思います。 

スーベニアフロムトーキョーでは、マンガからアートブック、工芸品から若手デザイナーの作品まで、知名度やジャンルにとらわれることなく、東京的視点で新しいデザインやアートを届けている
スーベニアフロムトーキョーでは、マンガからアートブック、工芸品から若手デザイナーの作品まで、知名度やジャンルにとらわれることなく、東京的視点で新しいデザインやアートを届けている

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