農業、観光、ITの相乗で終わらない支援の仕組みを 岩沼みんなの家 by infocom
エコシステムへの挑戦
平成27年度には、補助金を得て1泊2日のモニターツアーを3回開催している。千年希望の丘での育樹活動、定植や収穫などの農業体験、岩沼みんなの家でのバーベキュー、震災の語り部と被災沿岸部視察などを行った。
平成28年度の地域交流イベントを含む岩沼復興アグリツーリズムは、主に地域の被災者に対する事業については復興庁の「心の復興」事業に、市外や首都圏の人を呼び込むことについては宮城県「みやぎ地域復興支援助成金」事業に採択された。そして同年度のツアーは白菜やとうもろこし、さつまいもを定植し収穫するなど、計6回を日帰りで行い、のべ781人が参加している。
白菜の植え付け
参加者は親子連れや女性グループが多い。「子どもに土とのふれあいを体験させたい、子どもが喜ぶという声が多いです」と堀さん。特に好評だったのはいもほりだ。
いもほり
千年希望の丘3号丘で育樹
この時のツアーでは仙台から貸し切りバスを出している。仙台市からの参加者にはマイカー利用希望者が多いのだが、遠方からの参加者はほとんどバスを利用するからである。
インフォコムは旅行業登録をしていないので、参加費を徴収し、運送や宿泊を含むツアーは催行できない。そこで、昨年度のツアーではモニターツアーに参加していた旅行会社に協力してもらっている。開催6回の全部が日帰りとなったのは、宿泊を含むツアーを組むには「マンパワーが足りなかった」からという。インフォコムは旅行業者ではないから、「金額をいくらに設定すればいいか、何人参加者が集まるか、などが想定できなかった」と堀さんは話す。それでも、いもほりの回では収支が合ったという。
参加者は仙台市や、近隣市町村の人が多い。ホームページやフェイスブックでの告知のほか、仙台市では新聞に折り込みチラシを入れた。首都圏へのPRは今後への課題だ。「新幹線で往復2万円かけて来るほどの魅力がまだ出せていない」と堀さんは話す。
今年5月、「一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーション」が設立された。主に岩沼復興アグリツーリズム事業と岩沼農業6次産業化事業を行うこの法人の目的には「宮城県岩沼市の復興支援活動と地方創生への貢献活動及びその活動継続のための『本当に世の中の役に立つ』事業の創出」と掲げられている。
設立のきっかけはいくつかあった。一つは、前年度から始まった県の「みやぎ地域復興支援助成金」の交付要綱では、法人格のあるNPO等への助成対象事業費の上限額は任意団体等の3倍以上となること。また、県内の多くの復興支援団体が先細りになっている中、岩沼みんなの家の活動の継続、拡大に県からも期待が寄せられていると感じたこと。さらに、地域の方との共創や、助成金の使途明瞭化も進むことが期待できること。こうしたことは、インフォコムが今後も継続的に活動にかかわることにプラスになると考えられたからだ。代表理事には、当初からの地域の協力者と、インフォコム取締役CSROの2人が就いている。
今年度最初の一般向けのツアーは9月2日に行われた。このツアーではいくつかの試みを行っている。一つは前年度の途中から実施していた仙台からのバスツアーをやめ、現地集合または岩沼駅からの送迎としたことだ。
今回のメインイベントは植樹、育樹とした。育樹では参加者を2チームに分け、ゲーム形式で楽しみながら参加できるようにした。
さらに、近年人気上昇中の「岩沼ひつじ」に会える機会もつくった。2015年、景観改善などを目的に、玉浦地区沿岸部で雑草を食べさせる「岩沼ひつじ」の放牧が始まった。岩沼市スマイルサポートセンター等が牧柵などを整備し、今年5月に牧場が完成したものだ。ツアーではこのひつじの柵に色を塗るイベントを加えたのである。
岩沼みんなの家ではさまざまな場所との連携によって、ツアーに新たな魅力をつくろうとしている。ただし、ツアーの事業化はまだ難しい状況だ。
それでも、堀さんは諦めているわけではない。東北に15軒ある「みんなの家」で、岩沼みんなの家ほど活用されているものは少ない。それほどに、「続ける」ということは簡単なことではない。
アグリツーリズムなどの事業については新しい一般社団法人が行うことになったが、岩沼みんなの家は引き続きインフォコムの事業所として直営を続けている。イベントなどについても、継続を考えたよりよい運営を模索中だ。
堀:竣工から4年たちましたが、事業をつくらないと、つまり岩沼でビジネスが起きて収入が生まれ、雇用が生まれて、それで次の活動を行うエコシステムができる、というところまでやりとげないと、成功とは言えません。それまではやるし、それをやってずっと続けるというのが目標です。
岩沼係長
ツアーの事業化に向け、魅力を向上させるポイントの一つは、他の場所との連携にあるのかもしれない。震災から6年がたち、岩沼市でも観光パンフレットが発行されるなど地域資源の見直しが進んでいる。そして、「ひつじ」など新たな魅力も生まれている。
また昨年4月には、公募で選ばれた岩沼市マスコットキャラクター「岩沼係長」がデビューした。岩沼市のブランドづくりも少しずつ進んでいる。
インフォコムが粘り強く関わり続けていることは、地域にとって大きな意味があると感じる。東京とのネットワークを生かして6次産業化やツーリズムなどさまざまな事業を立ち上げ、磨くことは、地域の人だけでは難しい。さらに、岩沼の真ん中にスタイリッシュな空気を入れつつ、地元の人たちと共に取り組む姿は、岩沼の子どもたちのあこがれの存在にもなりえるだろう。
自治体など行政も、補助金という形に限らず、岩沼みんなの家が活動しやすいような情報提供や環境づくりのサポートが求められているのではないだろうか。
(取材・文/青木 遥)
リンク:岩沼みんなの家
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