再生の最前線、東北を訪れるという応援

宮原育子宮城大学事業構想学部事業計画学科教授

2016.03.01宮城県

交流人口誘致で地域活性化

 3月に入った。今年は東日本大震災から丸5年を迎える。太平洋沿岸部の津波被災地では、日一日と復興に向けた取り組みが進められている。2011年に各被災自治体が策定した「復興計画」でも5年を一区切りにして、より積極的な復興を目指すところが多い。

 一方で、復興が進むにつれて、被災した人々の生活環境や意識も変化し、津波で傷ついた故郷を後にして新たな町での生活を始める人々も出てきた。
 沿岸被災自治体では、定住人口の急速な減少が大きな問題となっている。震災前においても、人口減少の傾向はあり、各市町の大きな課題のひとつではあったが、震災後はその減少が加速化しているのだ。
 被災地の人口減少は、地域の経済的、人的活力が損なわれ、復興の取り組みや地域の将来ビジョンにも大きなずれが生じる恐れがある。人口減少を背景に地域では観光や研修、教育旅行などで地域を訪れる「交流人口」を誘致することで、地域の活性化を図ることが急務となっている。 

東北を訪れてほしい

宮城県東松島市野蒜(のびる)地区 明治時代の築港跡地にて 津波後も市民ガイドが跡地の案内をしている
宮城県東松島市野蒜(のびる)地区 明治時代の築港跡地にて 津波後も市民ガイドが跡地の案内をしている

 東北の主要な観光地のひとつである日本三景松島は、津波の被害が比較的少なく、2011年5月には松島湾内の遊覧船が運航を再開し、ホテル・旅館も順次営業を再開するなど、他地域に先駆けて復興が進んだ地域である。
 それでも、昨年の観光客数は震災前の9割近くに戻ったが、宿泊客数に関しては7割ほどで、震災前のレベルには戻ったとは言えない。

 宿泊観光客の減少傾向は、震災の被害を免れた日本海側の秋田県や山形県でも見ることができる。
 東北全体の宿泊観光客の減少の要因のひとつとして、東北は本州の他地域に比べて域内の宿泊客が多いということが挙げられる。すなわち、東北を観光して宿泊しているのは東北の人々であるということだ。
 しかし、東北では高齢化が進み、湯治などで東北域内の旅行を楽しんだ人々も徐々に減少している。

首都圏や西日本からの来訪が必要

 今、東北の地域に必要なのは、東北地域外からの観光客の来訪である。首都圏や西日本の地域人々に東北を訪れてほしいのである。
 東北には2011年の震災でボランティアが被災各地に入っていたが、現在はその数も随分減少した。震災から時間が経ち、メディアでの話題も少なくなっている中で、遠隔地に住む人々は「被災地はもう復興して大丈夫だから、別の場所に旅行しようか」という意識になっているのではないだろうか。

 震災から5年たった今年は、ぜひ東北に足を向けてほしい。2011年にボランティアで来訪した人は、がれきだらけだった町が整地され、土地のかさ上げが進み、高台の公営住宅に人々の生活が始まっていることを見ることができるだろう。海の養殖いかだも増えて、真新しい漁船から新鮮な海産物の水揚げも増えている。小学校は統廃合されたところもあるが、それでも子どもたちは元気に学校に通っている。
 東北の太平洋沿岸部は震災のために、「被災地」という名称がついてしまったが、被災地は時間がかかっても海とともにある魅力的な地域をつくっていく再生の最前線でもある。

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