鉄道新時代と観光地域活性化に関する一考察 「鉄道のチカラ(鉄道力)」とは

崎本武志江戸川大学社会学部現代社会学科准教授

2015.05.01鳥取県

鉄道を楽しむ旅が人気

 21世紀に入り、鉄道は環境に優しい低炭素化社会の担い手としての可能性や将来性を高く評価されている。高速かつ大量の輸送力を持つ新幹線は北陸や九州、近い将来北海道に路線を延伸し、海外における新幹線建設・運行においては高水準な日本の技術力を売りにしたインフラ輸出という新たな貿易拡大の切り札として期待されている。

 元来数多くのファンを持つことも相まって、現在鉄道は空前のブームとなっている。新幹線ばかりでなく、JR九州が運行を開始した「ななつ星in九州」は、鉄道車両内において豪奢なひとときを味わうことを目的とした「クルーズトレイン」として登場した。「ななつ星in九州」の登場は、鉄道を「交通手段」としてではなく、「鉄道に乗ることそのものが目的」として利用する方向性を提供した、極めて画期的なものであった。

 目的地に向かうための手段・足として鉄道を利用する「派生需要」としてではなく、鉄道に乗車する行為を目的とする「本源需要」としての鉄道利用のあり方は、これまで鉄道ファンなど一部の層のみが味わう楽しみ方であったが、現在は歴とした観光目的として確立され、社会的にも広く認知され、ほぼ定着したと言っても良いであろう。また、こういった観光客を目的とした列車である「観光列車」「観光車両」が各地で数多く登場し、人気を博している。

若桜鉄道でのSL走行実験

若桜駅構内で保存されていたSL
若桜駅構内で保存されていたSL

 そんな中、2015年4月11日に鳥取県において、或る「社会実験」が盛大に実施された。鉄道の新たな可能性を占ううえで後世に語り継がれることになるであろうこの「社会実験」とは、鳥取県八頭町郡家から若桜町までを結ぶ第三セクター鉄道「若桜鉄道」において行われた、SLを走行させる実験であった。

 若桜鉄道は国鉄若桜線として運行していたが、1987年の民営化の際に第三セクター鉄道として再出発した、典型的な地方ローカル路線である。他の地方交通線と同様に、沿線人口減少とモータリゼーション化の波に押され、非常に苦しい経営を強いられている。それでも、鉄道が廃止されると町ごと他市町に吸収合併される可能性があり、それにより集落消滅と過疎化をさらに加速させる恐れがあると考える沿線自治体は、鉄道を懸命に守り続けてきた。
 若桜鉄道では、現役のころは国鉄若桜線で運行され、その後兵庫県多可町で静態保存されていたSL「C12型167号機」について、2007年に無償譲渡を受けた。若桜駅構内で保存していた。このSLを、2014年に公募で社長に就任した山田和昭社長が中心となって復活運行を企画、若桜鉄道社員の努力によって3カ月間の整備を経て、今回の社会実験走行に繋げた。

若桜鉄道
若桜鉄道

 SL自体は一旦廃車となっているため、旅客運用には再度車籍(自動車では車検に該当する)を復活させる必要がある。国登録有形文化財となっている若桜駅は桜の名所であり、観光来客を目的とした社会実験を行うには桜が満開の時期がふさわしいと判断され、あえて車籍復活まで待たずに実施した。若桜町などの名物である案山子を乗客として客車に積載しSLに牽引させたものを実験車両として走行させ、走行中は一般車両を運休とし、線路閉鎖して対応した。

 この社会実験は鳥取県も協力し、SL運行による観光客誘引目標数を1万人と定めた。同時に沿線では各所に有料駐車場を設け、若桜駅などではイベントとして数多くの屋台などが出店した。その結果、14,000人を超える集客を得て実験は成功裡に終わった。

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