農業、観光、ITの相乗で終わらない支援の仕組みを 岩沼みんなの家 by infocom

2017.10.19宮城県

課題を解決する復興アグリツーリズム

 岩沼みんなの家で平成27年度から始めたのが「岩沼復興アグリツーリズム」だ。これは、さまざまな課題を解決する策として考えられたものだ。

 岩沼市では2013年から「千年希望の丘」を整備している。これはいくつもの丘と「緑の堤防」を連結させて津波の力を減衰させ、避難場所としても活用するものだ。
 現在も整備が続いており、一つの丘が整備されると植樹が行われる。しかし、除草やゴミ拾いなど育樹体制はまだ整いきっていない。

 また、岩沼市の観光振興やブランディングも発展途上だ。岩沼市にはパワースポットとされる竹駒神社や金蛇水神社(かなへびすいじんじんじゃ)があり、ホルモン焼きの岩沼とんちゃんなど食の名物もあるが、広く人気を集める存在とは言えなかった。「外国人観光客にも、岩沼を含めた宮城県東部に来てほしい」と堀さんは話す。

DSC_0217松尾芭蕉が詠んだ「二木の松」もある

 観光以外の分野でも、「岩沼」のブランドはこれまであまり強く打ち出されてこなかった。例えば戦前全国に大量に出荷されていた「仙台白菜」も、岩沼市玉浦地区が一大産地だった。
 しかし震災後には、この白菜を「岩沼白菜」としてリブランディングし、売り出し始めている。

 堀さんには、アグリツーリズムが被災した方の「心の復興」にも役立つかもしれないという期待があった。津波で家を失い、集団移転によって庭がなくなった人もいる。「農業体験で土に触れ、それが少しでも生きがいになれば」と堀さんは言う。芋煮会など地域内外の人との交流をつくりだし、孤独に陥らせないことも狙いだ。

 さらに、今後の運営についても課題があった。インフォコムでは会社のCSRの一環として岩沼みんなの家での活動に取り組む一方、岩沼みんなの家を事業所の一つとして登記している。
「民間企業の場合、社会貢献として施設を運営していくと、いつか続けられなくなる可能性もあります。だから事業をつくりだし、利益や雇用が生まれて復興支援活動を継続していける、そういう仕組みをつくることが大切です」
 この仕組みはまだ確立できていないが、事業化の可能性があると考えられているのが農業ITの分野だ。
「専門家の間では、経営やコストダウンにITを活用するには、もう少し時間が必要だと言われています。しかし、生産物を流通させるまでの間にITが活用できる部分があると思います。アグリツーリズムではメインコンテンツが農業です。農作業から販売までを自分たちで行い、効率化や販売拡大など、新しい農業ITの事業の芽を見つけたいと考えています」

 これらの課題の解決を目指すため、「岩沼復興アグリツーリズム」は、千年希望の丘での育樹体験、農業体験、震災語り部による話を聞くという3つの組み合わせからなるものとした。以前からともに活動していた農業生産法人の協力により、千年希望の丘3号丘のふもとに「みんなの千年希望の丘ファーム」が開かれ、ここで農業体験や、農業ITの事業化に向けた実験を行う。またインフォコムは千年希望の丘サポーターとなり、除草に必要な物品の貸与や支給を受けて育樹を行う。

 平成27年度の復興庁「新しい東北」先導モデル事業に岩沼復興アグリツーリズムとして応募しようと考えたが、そのためには自治体からの推薦状が必要だった。
 岩沼みんなの家の建設は民間で行われ、岩沼市は関わっていなかった。しかし協力者の中には小学校のPTA会長を務める人などもいて、そうしたネットワークから少しずつ市ともかかわりができていった。
 推薦状について市に相談すると、地域の人を代表とする団体をつくってほしいという返事があった。以前からの協力者である農業生産法人の方が代表を引き受けてくれ、岩沼みんなの家が代表団体となって「岩沼復興アグリツーリズム協議会」が設立された。これにより市からの推薦を得て「「千年希望の丘」岩沼復興アグリツーリズム」がモデル事業に採択された。

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