地域の魅力を詰め込んだ産業遺産をめぐる旅
今回は私たちの活動の中心である産業遺産をめぐるツアーをご紹介します。
ツアー作りの原点! 湊川隧道ツアー
私が住んでいる兵庫県神戸市に、日本で初めて造られた河川トンネル「湊川隧道」があります。
明治時代に造られたもので、完成当時は世界最大級の河川トンネルといわれていた場所です。(湊川隧道HP)
とても素晴らしい産業遺産だったことから、早速J-heritageでもツアーを開催することになりました。
地元だったことから、企画、ガイドを担当することに。
実はこのツアー、私が初めて自分で企画・開催したものなんです。
当時の私は、ツアーのノウハウも良く分からず、すべてが手探り状態でした。ツアー時間は一体どれぐらい必要なのか、集合場所から隧道までのルートはどこにすればいいのか、トイレ休憩はどこにするのか……。考えれば考えるだけ、課題が出てきます。
そして歴史。
当日のガイドも担当するので、街の歴史を知らないといけない。
必死で勉強し、行程表には「この場所ではこの歴史を言おう」と考えた大量のメモでびっしり埋め尽くされていました。
今思えば、当時の私は「ガイドは歴史を伝えないといけない!」と強く思いすぎていたようです。
ガイド中に話すことを決め、ツアーの行程が完成すると、何度もリハーサルを行いました。
時間も予定通りで、歴史もなんとか話せるようになったのですが、なぜかしっくりきません。
「なんか思ってたのと違う。面白くない」
それからというもの、どうすればツアーが面白くなるのかを必死で考えました。
まず、私は参加してくれるお客さんのことを考えました。
「果たしてお客さんは本当に歴史を知りたいのか?」
私がもしお客さんだったら、歴史ばかり話されたらしんどいし、せっかくツアーに参加するなら、この場所でしか食べられないグルメを楽しんだり、地域ならではの面白い話を聞いたりしたいと思いました。
次に考えたのはガイドをする自分のこと。
「私は参加してくれたお客さんにツアー終了後、どんな風に思って欲しいのか?」
そう考えた時、私の中で答えが見えました。
それはツアーが終わった後、お客さんに「この地域、めっちゃおもしろかった!」と思ってもらいたいということ。
湊川隧道のある新開地・湊川は、かつて日雇い労働者の街であったことから、治安があまり良くないイメージのある場所でした。この地域を良く知らない人は特にそのイメージが強いらしく、なかなか街の良さを知ってもらう機会はありませんでした。
私自身、この街で暮らして30年以上。
面白い人や美味しいお店もたくさんあり、今でも「こんな素敵な場所、他にはない!」と思っています。
どうにかツアーを通してこの街の魅力を伝えることはできないか。
そう思い、あれだけ調べた歴史を半分以下に削り、2つのことを取り入れることにしました。
1つ目は私が大好きなお店に行って、みんなで食べ歩きやランチを楽しむこと。ただし、ただ食べるだけではなく、お店の方にお店ができた当時の話や、メニューへのこだわりなどを話してもらいます。そうすることで、地元の人の温かさや思いが伝わり、より楽しむことができます。
2つ目は私の大好きな場所や思い出などの情報をできる限りたくさん伝えることです。
ツアーで行くお店以外にも自分のお気に入りのお店の情報を伝えたり、昔の街の様子を伝えたり、とにかく自分が普段から大好きな街のことを、まるで自慢大会のように話しました。
ここで気をつけたいことは、私自身がめちゃくちゃ楽しんで案内をするということ。
お客さんには案内するガイドの気持ちがすごく伝わります。ガイドが身構えているとお客さんも緊張してしまいます。でも、ガイドがニコニコしていて「ここがめちゃくちゃいいんですよ!」と伝えると興味を持って、一緒に楽しんでくれるんです。
この2つのことを取り入れた結果、お客さんも「またこの街来るわ!」「この街、面白かったよ」など、嬉しい感想をたくさんいただき、ツアーは無事に終了しました。
前畑氏が初めて企画・ガイドをした「湊川隧道ツアー」の集合写真
産業遺産だけでなく、地域を楽しむツアーづくりを
試行錯誤して企画した湊川隧道ツアー。この経験があったからこそ、私はツアーを作る上で大切なことを学びました。それは、産業遺産だけでなく、地域や人を巻き込むことで、お客さんにその地域を好きになってもらえるということ。
ちなみに、ツアーを何度も企画してわかったことなのですが、産業遺産だけでは、なかなかリピーターにはつながりません。
私たちもそうですが、一度旅行で行った観光地にもう一度行きたいと思うことって滅多にありませんよね? せっかくなら違う場所を見てみたいと思うことが多いかと思います。
ただ、私が企画したツアーで来てくれたお客さんの中には、もう一度行ってきました! という方も多くいます。
では、そのリピートしたいと思う要素は何なのか。
それは美味しいグルメや地域の人でした。
「この前食べた美味しかったグルメ、今度は家族や友人に食べさせたい」「気になるお店があったから次は行ってみよう!」「あの面白かった地域の人とまた喋りたい」そういった思いから「そのついでに産業遺産に行こう」といった形でリピートする人が多かったのです。
改めて地域や人、グルメの大切さを実感しました。
産業遺産をめぐるツアー。今後も産業遺産や地域、人の魅力をたくさん詰め込んだ「地域を好きになってもらえるツアー」を心がけていこうと思っています。
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