地域とともにある生業の「やる人育て」。篠山イノベーターズスクールの観光人材育成

2017.09.01兵庫県

次へつながる場

 篠山イノベーターズスクールは3つの内容で構成されている。1つは篠山を舞台とする少人数制プロジェクトに参画し、地域ビジネス実践者からそのノウハウやスキルを学ぶ「CBL(Community Based Learning)」だ。講師としてその道のプロを招き「弟子入り」するような形で、その人の技や生計の立て方などをまるごと学ぶ。
 次に「セミナー」では、農村地域での活動に必要な基礎知識を座学で学ぶ。3つ目に、一人一人に合わせて「起業・継業サポート」を受けることができる。

 2016年10月からの1期のCBLでは「丹波食べる通信(仮称)立ち上げプロジェクト」「クリエイティブ農業実践プロジェクト」「跡地活用スモールビジネス立ち上げプロジェクト」の3つのプロジェクトが行われた。

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ぼたん鍋を試食しながらミーティング

 「丹波食べる通信(仮称)立ち上げプロジェクト」では、「四国食べる通信」を発行する眞鍋邦大さんを講師/メンターに迎え、「丹波食べる通信(仮称)」の立ち上げに挑戦した。衛藤さんはファシリテーターを務めた。「食べる通信」は生産者を特集した情報誌と食材がセットで届く定期購読誌で、2013年に「東北食べる通信」が始まり、今では全国38地域に拡大している。
 プロジェクトでは篠山の食材から「牡丹鍋セット」を販売したいと考え、猪の猟師や味噌の加工施設、大豆の生産者、朝倉山椒の生産者などを訪問し、取材した。

 実際に販売するところまで想定していたが、仕入れ代などを受講生でまかなうことが難しく断念した。しかし、参加したコピーライター、カメラマン、デザイナー、フリーライターなどのメンバーによって「丹波篠山編集室」が立ち上がり、廃校となった小学校の一室を事務所として活用する計画が動いている。篠山イノベーターズスクールが次につながる形になった。メンバーには篠山に移住し、拠点を構えた人もいれば、篠山に通ってくる人、また地元の人もいる。

 「クリエイティブ農業実践プロジェクト」では、講師/メンターに吉良有機農園の吉良正博さん、佳晃さん親子を迎えた。吉良さんは篠山市内で無農薬、少量多品種栽培を行っており、ホウレンソウを葉1枚単位で出荷するなど、独自の方法で販路を開拓してきた。農業に関するプロジェクトが企画され、ファシリテーターの衛藤さんが以前から知り合いだった吉良さんに講師を頼むと、快く引き受けてもらえた。

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苗の定植

衛藤:正博さんは、農園の経営が成立するようになり、息子さんが農業を継いだこともあって、これからの農業はチームで担うべきではないかとちょうど考えていたようです。
 受講生の中には就農を目指す人もいればそうではない人もいるが大丈夫ですか、と最初に聞くと「むしろそういう人のほうがいい。そういう人が農業に関心を持ち、面白さに気付くだけでも十分意味があると思う」と言ってくれたのが非常にありがたかったです。

 実際に、自分が農業をするわけではなくても、このプロジェクトをきっかけに動き出した人もいる。夫がミカン農家で、最初は手伝いをするだけのつもりだった人は、地元丹波の農産物を使った商品開発や営業を始めた。篠山イノベーターズスクールでは、周囲に前向きに動こうとしている人がいるので、自分も刺激を受けるという声もある。

講師のやり方を知り、実践へ

 2017年4月からの2期のCBLでは、「これからの里山林業創造プロジェクト」「地域に根ざしたツアー企画開業プロジェクト」「草木を活かす手仕事づくりプロジェクト」の3つのプロジェクトが開講した。

衛藤:商品開発は1期の時から企画がありました。また、1期に引き続き1次産業を扱おうと、林業の開講も決まりました。他のプロジェクトとのバランスを考えると、残りの1つは観光ではどうだろうかと考えました。主催者である篠山市の方に話をうかがったときにも、インバウンドに力を入れたい、それができる人がいればいいという話があり、タイミングとしても今なのではないかと思いました。
 市内では、特に週末には城下町周辺を訪れる人が増え、新しい店もできて、10年前には考えられなかったほどにぎやかになっています。DMOもでき、これから何かを行う器はできたのではないでしょうか。
 ただ、大型バスで訪れるようなマスツーリズムは頭打ちになっているのではないかと思います。実際にそこに住む人と関わり、体験するような観光が求められているのではないかと思います。

 衛藤さんがこのプロジェクトの講師を依頼したのが、滋賀県を拠点とする悠ツアーの森聖太さんだ。森さんは1日1組限定で、主にアメリカやオーストラリアといった英語圏からの訪日観光客に向けて、小さな窯元での陶芸家との交流や棚田の集落での農家訪問など、地域を案内するツアーを行っている。

衛藤:篠山にも立杭焼という焼物があり、他にもまだまだポテンシャルがあると思います。そういうところに光を当てて、ツアー商品として価値を出せる人、また自分が稼ぐだけではなく地域に還元していくことを、仕事としてできる人が求められています。

 参加者の一人が篠山市地域おこし協力隊の梅谷美知子さんだ。梅谷さんは篠山でインバウンドに関する着地型観光事業を立ち上げたいと考えていた。協力隊選考の面接時に、市のコーディネーターから篠山イノベーターズスクールのことを聞き、参加を決めた。
 他にも大阪の会社員や、子どもに農業体験などをさせたい学習塾経営者、企業で公共交通機関を拠点とした周遊観光を考えている人、ボランティアガイドをしていてそれを生業としたい人なども参加した。

 梅谷さんが特に印象に残っているのは森さんの地元、滋賀県での実地研修だ。実際に森さんのガイドツアーを体験しながら、随所で、ガイドとして配慮する点などの説明を受けた。

梅谷:体験を通してこういうことを伝えたいという考えがあり、一つ一つに意味があるので、お客さんもついてきているのだろうと思いました。
 また、森さんが地域の人と密着して取り組んでいることもわかりました。用水路の掃除などを一緒に楽しみながらやっていたり、地元女性の会に呼ばれたりして地域づきあいがあるので、ツアーで行っても「ああ、森さん」と歓迎されています。地域の中に入って地域を理解している人の目線でないとガイドできないものがあるのだとわかりました。ビジネスとしてやっているから、継続的に責任をもって現場をリサーチしたり、地域の人とつながって深く切り込んだりすることができ、自分にしか見せられないものという武器ができるのだと思います。
 そうしたプロセスをさらけ出して、失敗談やマイナスなことも教えてくれました。

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地元の有償ボランティアによるガイドツアーも体験

 プロジェクトでは座学と実地研修を踏まえて、受講生のオリジナルツアーを開催した。8人の受講生が2班に分かれ、午前と午後の2部構成で開催する。プログラムの時間内で調整が終わらない部分は、班ごとにメールなどでやりとりをして準備を進めた。
 梅谷さんの班は「丹波篠山城下町 粋な楽しみ方ツアー」を開催し、河原町妻入り商家群を中心にまちあるきを行った。

梅谷:河原町は城下町から少し離れていて、日帰り客は訪れないことも多いです。しかし国の重要伝統的建造物群保存地区で歴史のある建物が多く、また若い人が古い建物をリノベーションした店もあります。面白い場所なので、ここを掘り下げてみてはどうかと班で話し合いました。

 班の中でも地元に住む人が、河原町の店を訪ね、ツアーで話をしてもらえるよう頼んだ。企画にあたっては、集合場所、雨が降ったときの対応、その連絡方法など、森さんによるチェックリストに沿って準備を進めた。ツアーのチラシも森さんが添削した。

梅谷:立ち寄る場所は多くあるのですが、森さんから「チラシに書いてあったことが全部実行できなければ、お客さんの不満足になる」と指導がありました。書ける範囲で書き、集合場所などポイントはわかりやすくするようにしました。

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ツアーのチラシ

 別の班では「丹波茶とゆかりのお寺めぐりサイクリング《お茶菓⼦つき》」を企画した。

 ツアーの発表から開催まで約1週間しかなかったが、受講生のSNSなどによる呼びかけに加え、農村イノベーションラボのFacebookや、ラボの持つ篠山口駅のデジタルサイネージなどで告知し、定員10名のところに市内外から7人の参加者が集まった。

  ツアーでは以前からボランティアガイドを行っていた受講生が中心となって説明し、梅谷さんも事前に図書館などで建物や神社などについての情報を調べて説明した。
 店主の話が盛り上がって想定以上に長くなり、予定していた場所にすべて行くことが難しくなるというハプニングもあったが、森さんのアドバイスで、柔軟に対応することができた。

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畳店で話を聞く

 参加者にはプロジェクトの一環のツアーということを事前に伝えてあり、ツアーの最後に感想を話してもらう時間を取った。コンテンツが多く、2時間半ずっと歩くツアーに対し、お茶を飲みながら休憩するような時間を取ったほうがいいなどの声があった。

170708sasayama-17-1024x768もう一つの班が開催した「丹波茶とゆかりのお寺めぐりサイクリング《お茶菓⼦つき》」の様子

 こうして実践できたことで「自信がついた」と梅谷さんは話す。

梅谷:こうするのが楽しいだろうと思っても、お客さんはそうではないこともあります。いろいろな角度から篠山での観光事業を考え、切り取り方を増やせたのではないかと思います。

 梅谷さんが地域おこし協力隊として担当している篠山市東部の村雲地区は、いわゆる観光地のあるエリアではない。

梅谷:でも、体験できることはたくさんあります。城下町での観光と、篠山の普通の人の暮らしの体験をうまく組み合わせられたら、自分なりの新しいツアーができるのではないかと考えています。

  参加者の中には、他の市町村でゲストハウスを開業した人や、副業としてツアーを開催したいと考えている人もいる。また、宿泊や運送を組み合わせたツアーを扱うには、旅行業務取扱管理者の資格が必要となるため、その取得を目指して勉強している人もいる。

衛藤:何となく関心、可能性を感じて篠山イノベーターズスクールに来てもらい、実際を知って、難しいと思う人が出てきてもいいと思っています。それでも希望の見える分野を見つけて、挑戦していく人を全力で支援したいと思っています。 今回の講座では、講師の森さんが、時間外の対応なども快く引き受けてくれ、前のめりに関わってくれたのもありがたかったです。

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