地域とともにある生業の「やる人育て」。篠山イノベーターズスクールの観光人材育成

2017.09.01兵庫県

DSC_8136衛藤彬史さん(右)と梅谷美知子さん

 近年、DMOの創設などにより、観光分野でこれまでとは違った役割を担う人材が求められるようになっている。しかし、そうした人材がなかなか見つからず悩む地域も多い。
 外部から連れてくることが難しければ、地域で担い手を育成するという方法も考えられる。近年では、地方への移住者や移住を考える人を対象として、起業を目指すスクールが各地で開講されている。しかし、そこで観光が主なテーマとなることはあまり多くないようだ。

 兵庫県篠山市にある「神戸大学・篠山市農村イノベーションラボ」が行う「篠山イノベーターズスクール」では、CBL(Community Based Learning)の1つとして「地域に根ざしたツアー企画開業プロジェクト」が行われた。観光分野での人材育成の課題解決にもつながるこのプロジェクトでは、どんな人材育成が行われていたのか。この篠山イノベーターズスクールコーディネーターの衛藤彬史(あきふみ)さんと、講座を受講した篠山市地域おこし協力隊の梅谷美知子さんにお話をうかがった。

「なんとなく」を行動に移す支援

 篠山市は兵庫県の中東部に位置する。市中央部には篠山城跡があり、その周辺には武家屋敷群、商家屋敷群もある。歴史ある古民家も多く残り、近年ではその活用も盛んに行われ、新しい店もできている。中心部を離れると、特産品の黒豆の畑をはじめとした田畑が広がる。DSC_8173
田園地帯が広がる

 篠山市には神戸大学農学部の前身である旧兵庫農科大学があったという縁もあって、市と大学では連携協定を結び、2007年からは「神戸大学篠山フィールドステーション」が設置されていた。

 設置10年の節目だった2016年10月、JR篠山口駅に新たに「神戸大学・篠山市農村イノベーションラボ」が設置された。フィールドステーションとあわせて、農村地域の課題解決と発展のため、現場発のイノベーション、地域に根ざした教育と研究、地域の人材育成に取り組む拠点として、神戸大学大学院農学研究科地域連携センターを中心に運営している。

 この中心的なプロジェクトとして始まったのが篠山イノベーターズスクールだ。篠山市が主催し、一般社団法人EKILAB.が運営、農村イノベーションラボが企画協力という形を取っている。同スクールは「イノベーターが農村で新しい価値を見つけ、仲間や地域とネットワークをつくり、想いを実現する、そのお手伝いをする1年間のプログラム」と紹介されている。

衛藤:最初の段階は「ないものねだり」。 地域に「何もない」と言っている段階です。しかし、例えば古民家や耕作放棄地なども、やり方によっては資源になります。
 次が「あるもの探し」の段階。イノシシの被害が多い、人が減って家が余っている、それならばジビエとして活用してレストランができるのではないか、やろうと思えばできるのではないかと考える段階です。
 その次は、それを実現できる人を探す「やる人探し」の段階です。活発に地域づくりが行われている場所には、例えば自分で農業をして、お店も開くような、元気な人が吸い寄せられるように集まってきます。
 ただ、そのような人はそれほど多くないため、全国のさまざまな地域で奪い合いが起こります。だから、次の「やる人育て」の段階が求められているのではないかと思います。

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 自分で実現できる人は、講座を受けることは考えず、直接地域に飛び込んでいく。この人たちは同スクールのターゲットではない。
 その下に位置するのが、フルタイムで数カ月にわたって開催される滞在型のスクールに参加する人だ。最近では、地域に移住し、活動する人材を育てる、「ローカルベンチャー」のスクール、クリエイターのスクールなどは全国に少しずつでき始めている。ただ、フルタイムで数カ月開講されるスクールに参加するためには、退職、移住などの必要がある。

衛藤:そういったスクールでは効率的に学び、吸収できるでしょうが、参加を決断するのは大変だと思います。地方でこんなことができるのではないかと何となく考えている人が、今の生活を続けながら次の生活を模索するところにニーズがあるのではないかと考えています。そういう人が地方に飛び込めるような支援ができるといいと思います。

 

スライド1-2
  篠山イノベーターズスクールでは、平日の夜や休日に講座が開かれている。また、篠山口駅までは、特急を使わなくても大阪駅から1時間、神戸市の三ノ宮駅から1時間半、京都駅から約1時間50分で、ラボは駅構内だ。農村らしさがある一方で、比較的アクセスがいい。移住者のすそ野を広げるためにも、一握りの自分でできる人、生活を変える決断ができる人だけではなく、より広い層へのアプローチが求められている。
 これまでの受講生は、神戸、大阪、京都、宮津などさまざまな場所から参加している。地域の課題に取り組もうとする地元の人もいる。年齢は22歳から64歳まで。会社員のほか、拠点を移すことを模索するフリーランスの人も多い。

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