未来の担い手をつくる観光まちづくり 高校生の居場所をつくり、一緒にまちの将来を考える佐原プロジェクト
観光をきっかけとして始まった佐原プロジェクト
東京大学都市デザイン研究室では、2009年より「観光客の回遊性の向上」をテーマに、市と協働して調査研究を始めました。
多くの観光客が訪れる佐原ですが、観光の中心となる町並みは、忠敬橋を中心に、小野川沿いと、川と交わる香取街道沿いの十文字状の範囲にあるため、観光客がそのエリア以外の広い範囲を巡ることはあまりありませんでした。調査ではその現状を明らかにしながら、さらに、中心の町並みの奥にある蔵などの歴史的建造物や旧水路跡の路地といった、地元の生活に根ざした小さな魅力が積み重なる場所へどう観光客を導けるかを提案していきました。
小野川・香取街道沿い以外にも魅力が集まる佐原のまち
生活する住民の視点をどう活かすか
佐原プロジェクトは観光に着目して始まりましたが、佐原は観光地であると同時に住宅地としての性格も強く、日常生活を送る人が数多くいます。
現在佐原が観光に活かしている町並みや環境は、住民の生活から生まれたものです。観光事業を推し進めていくには、これからも地域の日常生活を大切にする必要があるのではないか。そのような考えから、昔から佐原に住んでいる方たちに、昭和時代の日常生活の様子や、子どもの時にまちなかのどんな場所で過ごしていたかを尋ね、地図上にまとめる作業を行っていきました。
その情報を基に、生活の中で大切にしている場所をあぶり出していきました。それらを踏まえ、観光スポットとして目立つ場所だけではなく、生活の記憶の核となるような場所も守り、時には観光を通して地域のために活かせる場所にしていこうと提案しました。
一日の大半を佐原で過ごす高校生への着目
観光地や住宅街としての側面を持ち、観光客と、観光客を相手として商う商人と、日常生活を送る住民などで構成される佐原には、もう1グループ、別の立場の人たちがいます。高校生です。
佐原には、3つの高校があり、県内各地から、あるいは一部の高校では県外からも、生徒が通っています。佐原に住んでいる生徒もいますが、ほとんどは他の地域から通っています。しかし彼らも住んでこそいないものの、一日の大半を佐原で過ごしています。
「佐原に通う若者たちは佐原のことをどう感じているのだろうか」という疑問から、2014年に、ある高校の生徒に佐原に関するアンケートを実施しました。
その結果から、なんと、入学当初は佐原に興味を持っているにもかかわらず、学年が上がるほど佐原への関心や好意的イメージが薄まっていくことが分かりました。理由として、「まちなかに高校生が過ごせる場所がない」といった意見が挙がっていました。
本来であれば、他の地域から生徒がやってくることは、若い世代に佐原の魅力を知ってもらう絶好の機会であるはずです。しかし実際には、生徒が通学しているまちに関心が向いていない、厳しい現状がありました。
スポンサードリンク