水と光の観光まちづくり 「水都大阪」の再生から成長に向けて

橋爪紳也大阪府立大学大学院経済学研究科教授、大阪府立大学観光産業戦略研究所所長

2017.07.10大阪府

水と光の観光まちづくり 「水都大阪」の再生から成長に向けて
水辺の桜並木を活かした南天満公園のライトアップ。川面に映り込む桜並木の光と青色の光が混ざり合う光景が見どころ

水都大阪のネクストステージ 再生から成長へ

 大阪における「水都再生」は一定の実績をあげつつある。ハード事業、ソフト事業に加えて、多くの市民や地域社会がコミットしつつ、「水都」という大阪の新たなブランドイメージを共有する状況が見えてきた。これまでの成果に対して、日本都市計画学会の石川賞を受賞することができた。

 インバウンド観光客の増加に応じて、従前とは異なる観光需要を充たすべく、舟運も盛んになっている。さらに活動は「水の回廊」から周縁部にも広がっている。福島区の中央卸売市場前、富島地区の「中之島ゲート」、さらには大正区の尻無川沿いなどで、地域に密着した河川空間の賑わいづくりも始まっている。飲食や物販の店舗に加えて、宿泊施設の開設も具体化しつつある。

 この機運を、次の都市再開発、さらには観光まちづくり、あるいは新たな国際観光振興につなげてゆくことが必要であると考える。私たちはこの春、2020年を目標とする次世代の構想をとりまとめるとともに、新たな官民組織「水都大阪コンソーシアム」が設立された。私はビジョンの取りまとめにあって、「再生」を訴求する段階から、今後は水都大阪の「成長」を図る時期に入ったという認識を呈示した。

 議論の現場で私は「水都大阪の再生」の声をあげた2001年の原点に想いを馳せた。当初、意識したのは、大阪の地理的な特徴である。戦後、多くの河川を埋め立てたにも関わらず、「水都再生」がスタートした2001年段階でも、市域面積の10%程を河川空間が占めていた。

 近年、広島や東京も「水の都」だと称することがある。広島では太田川の分流が幾筋も流れ、東京も隅田川や荒川のほか、多くの運河網が連絡している。ただ河川空間が市街地に占める割合は、せいぜい3%から5%というところか。大阪のように市域の1割が川である都市はまれである。私たちの「水都大阪」に関する一連のプロジェクトは、この認識が原点である。

 今後は、陸路と水路の結節点である水際に栄え、広い水面を市域に持つ都市であるという視点から、新たな「水都の物語」を起ち上げていくことが大事だと考える。アメリカのテキサス州サンアントニオ市には、大阪と同様に都心に「ロの字」の水路網がある。この回廊を巡るように遊歩道「リバーウオーク」を整備、川筋に博覧会場、ホテル、劇場、ショッピングモール、見本市会場などを順次、建設しながら都心の再生に成功した。

 私もサンアントニオ市を、何度か視察する機会があった。川に面した開放的なレストランで食事を楽しむ人たちと、船遊びを楽しむ人たちの交流が印象的であった。また木陰を生むように水際に植樹を行ない、船からの景観を意識して文化的なモニュメントを川岸の随所に配置していたのも記憶に残る。「水都大阪」の成長を図るうえでも、ハードを整備するだけではなく、河川や船上のアクティビティと市街地での市民生活、双方の関係性を現代的に回復することが重要だと実感した。

 今後は大阪においても、国際観光をいっそう意識しつつ、舟運の活性化も含めて、四季折々の演出や賑わいづくりを進めたい。大阪には造幣局や桜の宮公園など、川沿いに桜の名所が線形に連なっている。大都市ではまれな春の美観だと思う。また夏には船を使った活力のある祭礼「天神祭」で賑わう。

 大阪全体が「光の饗宴」で賑わう12月には、川沿いにもイルミネーションで彩られる。名物となる年中行事が乏しい、2月、8月、10月などにも催事の企画を考えていきたい。

 川に沿った各地に、新たな観光名所をさらに構築してゆくことも重要である。私は、大阪は都市全体が、いわば「みなと」であると考えている。「港」という漢字に託された意味のとおり、水辺にある「巷」、すなわち賑わいのある場所が「港」である。近年、大阪の水辺には、新たな名所や賑わいの場が生まれている。今後も水際に「水辺の巷」を増やしていきたいと考えている。

資料提供:橋爪紳也コレクション

 

 

著者プロフィール

橋爪紳也

橋爪紳也大阪府立大学大学院経済学研究科教授、大阪府立大学観光産業戦略研究所所長

京都大学工学部建築学科卒業、同大学院工学研究科修士課程、大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。大阪市立大学都市研究プラザ教授などを経て現職。専門は建築史学・都市計画学・都市文化論・都市観光論。工学博士。創造都市・都市デザイン・観光まちづくりに関わる総合的な研究のほか、都市文化施設、遊園地やアミューズメント施設、イベント空間などを研究。大阪府特別顧問、大阪市特別顧問、大阪市景観審議会会長、大阪府河川水辺賑わいづくり審議会会長ほか兼職。2025年国際博覧会の誘致にあっては、基本構想や会場計画の立案に参画。『モダン都市の誕生』『大大阪モダン建築』『「水都大阪」物語』『瀬戸内海モダニズム周遊』ほか著書は80冊を越える。

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