楽しみ方を知れば、地域はもっと楽しくなる。ウェブメディア「ちちぶる」
ここで新しくつくる喜び
浅見さんは秩父郡横瀬町(よこぜまち)出身。東京で内装メーカーに勤めた後、ウェブマーケティングの仕事をしていたが、「Uターンしたい」と思うようになった。
浅見:東京にいる理由を見いだせなくなったのです。秩父を出たのは、おしゃれなお店もカフェも「何もない」と思ったから。東京で、情報やモノの溢れる中で生活していましたが、これ以上求める必要を感じなくなっていました。
もう一つの理由は、東京にいなくても同じ仕事ができると思ったことです。今はウェブ会議システムやSNSなどが発達して、人とつながることもできます。
秩父は、何もなくて自然がある。静かなところがいいと思っていました。そして東京に近い。この点は移住を考えるとき、秩父独特の魅力となります。私は仕事で東京の人に会う機会も多いので、東京へのアクセスのいい秩父は地方でも仕事がしやすい場所だと感じます。
それまでのウェブの仕事を生かせることがしたいと考えたとき、秩父には「今っぽい」、つまり「今の秩父を、読者目線で楽しく魅力的に発信できている」ウェブメディアがなかったという。「都会で見てきたウェブの観点を用いれば、いいものがつくれるのではないか、秩父の魅力が広がるのではないか」と、半年ほどブログの執筆をしていたこと以外に編集や執筆の経験はなかったが、昨年3月にちちぶるをオープン。当時は会社員で、週末に秩父へ取材に通っていた。
そして昨年12月に退職して独立。ちちぶるのウェブサイトからの収益は、現在も生計を立てるほどにはなっていないが、ちちぶるを見た人からライターや編集者として声がかかり、さまざまな仕事を請け負うようになった。また前職を生かし、ウェブサイトの制作やブランディング、駅のデジタルサイネージの映像制作なども行っている。
温泉、フードコート、お土産店などがある西部駅直結の施設「祭の湯」。今年4月にオープン、いち早く紹介したちちぶるの記事には多くのアクセスがあった
「この1、2年で秩父は相当変わりました。盛り上がってきています」と浅見さんは話す。
観光客の増加だけでなく、「秩父で楽しいことをやりたいというプレーヤーが増えた」こと、そうした人々がつながってコミュニティができていることを浅見さんは指摘する。
浅見:秩父にはもともと面白い人も、おしゃれな店もあったのですが、個々で活動していました。そこに「ある何か」がぽんと入って化学反応が起きて、一気にその人たちがつながって盛り上がったのではないかと思います。
「ある何か」とは、一つは「場と人」だと浅見さんはいう。例えば「秩父表参道Lab.」のインテリアショップ「インテリア・ネオスタイル」チーフデザイナーで、秩父表参道Lab.イベントマネージャーも務める吉田武志さんは、さまざまなイベントの企画に加え、ここを訪れる人と人をつなぐ役割も果たしている。
吉田さんは秩父の魅力を「未完成なところ、「伸びしろ」や「かかわりしろ」が残っているところ」だと話す。吉田さんは3年前に大阪から移住してきた。
吉田:秩父では、一人の移住がまちに影響を与えるのがわかります。マンパワーを実感できるのです。面白い「人」がいるのが一番の魅力ですね。
インテリア・ネオスタイル
他にも、浅見さんにはお茶を飲みながら話す中で、別の人を紹介してもらえるような店がいくつかある。飲み会やマルシェなどに顔を出して人を紹介されることもある。そうした場や人から得た口コミ情報が、ちちぶるのネタにつながることもある。
こうした浅見さんの動き、そしてそこから生まれるちちぶるも、「ある何か」の一つだと言えるだろう。
浅見:場ができ、発信力や行動力を持つ「燃料」になる人が現れて、散らばっていた人が束になりました。昨年の9月くらいから一気に同じタイミングでものごとが動き始めました。
また、地域外の若者が秩父地域をめぐり、参加者と地域の人が交流する「ソトものツアーズ」というイベントが継続的に行われており、浅見さんも参加している。その主催者も「ある何か」の一つだと浅見さんは言う。
このツアーをきっかけに昨年生まれたのが、横瀬町の「よこらぼ」だ。これは企業や団体・個人のプロジェクトを横瀬町で行ってもらい、町がそれをサポートするという仕組みで、これまでに地域体験ツアー、フラッシュモブなど10件以上が採択されている。「ソトものツアーズ」に横瀬町長が参加したことなどがスタートのきっかけとなった。
浅見さんは、ホームページでよこらぼや横瀬町の様子を伝える「よこらぼマガジン」の編集長となり、よこらぼキーパーソンへのインタビューや、横瀬町の紹介としておいしいお店の情報などを発信している。浅見さんもソトものツアーズに参加していたことがきっかけとなってかかわりはじめたが、当時のよこらぼでの情報発信が「イケてない」と感じ、改善を提案して認められた。現在ではよこらぼ上で自由に情報発信ができるそうだ。
また、クリエーターと横瀬町の中高生が町の活力アップにつながる企画を考える「横瀬クリエイティビティ―・クラス」という横瀬町の事業にも、浅見さんは参加している。
浅見:地域貢献という感覚よりは、地域に「伸びしろ」があり、そこで新しくつくっていく喜びを感じています。自分のやったことが形になっていくのが面白いですね。
横瀬町の人口は約8500人。この単位で考えれば、どんな地域でも伸びしろがあるのではないかと思います。
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