井波彫刻の職人と交流できるゲストハウス「BED AND CRAFT」が誕生 ―ゲストハウスを起点に地域全体で観光活性化を目指すコラレアルチザンジャパン―
アプリを活用し地域で外国人をおもてなし
旧横山一夢美術館を改修し、世界中の銘木をふんだんに使用した空間が特徴の「KIRAKU-KAN」 ©Kosuke Mae
築約50年の元建具屋を改修した「TATEGU-YA」 ©Kosuke Mae
富山の豪雪に耐えられる骨太な梁組が見どころの「MOMO-HOUSE」
BED AND CRAFTでは、「KIRAKU-KAN」「TATEGU-YA」「MOMO-HOUSE」との名称で3施設を提供している。それぞれ1日1組限定で、価格は1泊1人あたり6,000円から。クラフト体験は別途6,000円/人が必要となる。
オープンから約8カ月で300人以上が宿泊し、宿泊客の8割が欧米人で、2割が日本人を含めたアジア系の人々という。クラフト体験を軸とし、温かみのあるインテリアデザインを打ち出していることで、インテリアデザイナーや映画監督、アートディレクターなどクリエイティブな人々から人気が高くなっている。
当初、山川さんがターゲットに考えていたのは、首都圏に住む20~30代の女性だったため、こんなに外国人の宿泊客が増えることを予想していなかった。そこで外国人へのおもてなしにつながればという思いから、外国人のまち歩きを支援するスマートフォン向けのアプリを製作した。
アプリは日本語だけでなく英語と中国語に対応させ、ゲストハウスやワークショップの情報、瑞泉寺などの観光スポット、飲食店やイベント情報を紹介している。また、地図検索サービスと連動させているので、外国人が目的地へスムーズに到着することができる。
このアプリが活き、宿泊者はゲストハウスから外に出て、井波唯一の酒造所や歴史ある寺社などを散策し、買い物や食事を楽しんでいる。
山川:中には旅の記念にと高級布団一式をこのまちの布団屋で購入してくれた台湾人や、新婚旅行で来たというシンガポール人のカップルもいました。アプリは宿泊者だけでなく、地域の人が外国人をもてなそうと活用しているようです。おもてなしの輪が地域全体に広がっているのがうれしいですね。
アプリの活用で、地域の人との会話が弾む ©Kosuke Mae
職人との交流が思い出づくりと購入につながる
クラフト体験のワークショップは3種類ある。彫刻家の田中孝明さんによる「井波彫刻の手法をつかって、木のスプーンをつくろう」、漆芸家の田中早苗さんによる「自分で練り上げた色漆をつかって、箸をつくろう」、仏師の石原良定さんによる「仏師と一緒に、蓮の豆皿をつくろう」である。
(左)彫刻家の工房で、世界に一つだけのスプーンをつくることができる。(中央)漆芸家の工房で、色漆を練り上げるところから体験できる。(右)仏師の工房で、ノミをたたく作業から、彫刻刀での繊細な作業、最後の着色までを体験できる
山川:ワークショップでは、宿泊者が工房へ行き、3時間ぐらいで一つの作品をつくります。中には職人さんの人柄や仕事ぶりに惚れて、仕事を引退したら弟子になりたいと話す中国人もいました。たくさんの鑿や彫刻刀を使うので、無骨な出来ばえになりますが、それもまた味わいとなって、かけがえのない思い出になっているようです。
職人との交流を提供した結果、山川さんの狙いどおり、作品の購入につながったケースもあった。しかし一部の富裕層などに限られるため、もう少しコンパクトで実用的な商品を安価で提供することができれば、購入者の幅はもっと広がるのではないかと考えるようになった。
そこで、彫刻家の田中孝明さんとコラボをして、まるで木の実のような暖かみのある照明「KINOMI」を開発したのである。「TATEGU-YA」で設置すると、宿泊者が気に入り、購入につながったという。今後も山川さんは職人とコラボして、井波彫刻の技術を活かした商品開発を進めていく。
KINOMI 幅15㎝×奥行12㎝×高さ12㎝とスーツケースに入る大きさが人気 価格は32,000円(+消費税) ©Kosuke Mae
クリエーターの集うまちに
BED AND CRAFTのオープンを機に、井波のまちには外国人が少しずつ増えている。こうした状況を地域の人はどう見ているのだろうか。
山川:BED AND CRAFTのオープンにあたり、地域の皆さんに反対されるかもと心配しました。しかし、新しい拠点ができれば人が集うと前向きに捉えてくれて、空き家情報などたくさんの協力をいただきました。オープンしてからは、宿泊者がまちで消費してくれたという感謝の声をいただき、皆さんから温かく受け入れてもらっています。
BED AND CRAFTを通して山川さんが目指す井波とは、どんなまちなのだろうか。
山川:たくさんのバックパッカーが来て、いつも外国人であふれている場所にしたいとは思っていません。ゆっくりとした時間の中で、地域の人と外国人がジェスチャーを交えた会話を楽しみ、歴史や文化などに触れることができる場所にしたいと考えています。
今後山川さんがやってみたいことについても伺った。
山川:デザインやPR部分が得意なクリエイティブな方に積極的に移住してもらいたいです。職人さんとコラボし、ここでしか表現できない商品を開発して、井波彫刻を世界に向けて発信していきたいですね。
山川さんはこれまでに培ったネットワークと空き家情報とをマッチングさせて、井波発のクリエーションが生まれる場所をつくろうとしている。
山川さんの移住によって、これまでにない革新が井波にもたらされた。彫刻刀で木を削るように、ゆっくりだが着実に進化しつづける井波に今後も注目していきたい。
瑞泉寺の大門。唐戸上部には前川三四郎作による龍が彫刻され、井波彫刻の素晴らしさを感じることができる ©Kosuke Mae
リンク:BED AND CRAFT
(インタビュー・文/塩田恵理子)
■取材対象者プロフィール
1982年富山県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業後、プランテック総合計画事務所へ入社。2009年に中国の上海へ。MADA s.p.a.m Shanghaiで馬清運氏に師事、チーフデザイナーとして多くの公共建築、商業建築の設計に携わる。2011年にトモヤマカワデザインを設立。
プロフィール写真 ©Kosuke Mae
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