新しいプレーヤーと地域の魅せ方をデザインする 呉市豊町 井上明さん(前編)地域資源を生かしたビジネスモデルづくり

井上明合同会社よーそろ代表

2017.02.09広島県

地域の資源と観光客のニーズをどう重ね合わせるか

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島の土産物やオリジナルデザイン雑貨などを扱う「薩摩藩船宿跡脇屋」

 今では4軒の店を運営している井上さんだが、最初に手掛けたのはカフェである。なぜカフェだったのか。実はそこには地域の課題を逆手に取った井上さんのビジネスモデルがあった。「カフェ」をやりたかったわけではなく「カフェがないから作った」のだ。

 井上さんは最初に御手洗に通っていたころから、この地の持つある可能性に気付いていたという。

井上:「これだけ統一感のある伝統的な町並みが大切に受け継がれて残っているところはそう多くなく、大変魅力ある資源だと思いました。しかし船宿などもそうでしたが、動きがなく、せっかくの建物と空間を生かしきれていない気がしましたね。でもその分、あるものを変えるのではなく、見せ方を変えるだけで、訪れる人に喜んでもらえる表現ができる可能性を感じました」

一輪挿し3
美しく手が施された通りを一輪挿しが彩る

 井上さんが魅力的だと実感した統一感のある町並み。20年以上前も御手洗では、古い建物の消滅が危惧されていた。
 そこで住民らが保存活動に取り組み、1994年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されると、同年、町並みの保全とまちおこしに取り組む「重伝建を考える会」を設立。以後20年近く、建物の修理や維持、「すだれ一輪挿し」などの美観づくりに取り組んできた経緯がある。まさにこの町並みは、住民たちが大切に守り保全してきた努力の賜物だったのである。

 町の人が大切に守り受け継いできた豊かな地域資源。これをもっと活用すれば面白いものができると考えた井上さんは、観光客や住民のニーズ、さらに地域の課題と内と外のニーズを探りだしていった。

井上:「『若長」』を始める前、観光客からは『町中でゆっくり休憩できるお店がほしい』という声が多く上がっており、地区の人たちからは『歴史ある船宿を生かしてほしい』という思いも聞きました。一方で、風景や文化を楽しみながらゆっくり時間に浸る場所がなく、大長みかんなど町の特産であるかんきつ類を味わう場所がないことがとてももったいなく、その潜在的なニーズも強く感じていました。これらのニーズを重ね合わせた結果、すべてを満たすものとして導き出されたものが『カフェ』だったわけです。
 ここで飲食できる形にすれば、閉め切っていた2階から見える美しい景色も特産を使った食も味わうことができます。御手洗を知ってもらう入口を作り出せると思いました」

 こうして井上さんは、必要とされるものを求められる場所で展開しながら、同時に町の持つストーリーも発信する店をオープンしたのだ。

尾収屋外観
鍋焼きうどんの「尾収屋」

 これは他の店も同じで、サイクリストが増えて気軽に食事ができる飲食店が求められると、島の昔の名物「鍋焼きうどん」を出す「尾収屋」をオープンした。また、この土地らしいオリジナルの雑貨や作家作品を歴史のある薩摩藩の元船宿「脇屋」で扱い、物産販売とお試し移住の小商いレンタルスペースは、伝統的町並みのメインストリートで「潮待ち館」に設置という具合に、空き家という地域の課題を逆手にとって町の魅力発信へとつなげるビジネスを展開したのである。

(後編)に続く

取材対象者プロフィール

井上明

井上明合同会社よーそろ代表

広島市出身。外壁材メーカーに務め、鹿児島、宮崎に赴任した後、退職して広島県呉市に移住。2011年より呉市豊町の御手洗地区で地域資源を生かしたビジネス事業を展開し、町づくりにも関わる。御手洗重伝建の会の事務局長。合同会社よーそろ代表。御手洗地区でカフェなど4店舗運営するほか、妻が講師を務める「シニアパソコン教室えーる」も手がける。

ライタープロフィール

川西由香理

川西由香理

ライター。株式会社よつば編集広告事務所

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