バーチャルコミュニティが地域に共感を呼び、観光を促進させる 『おたるくらし』プロジェクトの現在と未来

佐山公一小樽商科大学社会情報学科教授

2017.01.06北海道

バーチャルコミュニティを継続していくための工夫

バーチャルコミュニティが地域に共感を呼び、観光を促進させる 『おたるくらし』プロジェクトの現在と未来
「懐かしい」などたくさんのコメントが寄せられ、シェアされている

 インターネットにはさまざまなバーチャルコミュニティがあり、ページへの「いいね!」「チャンネル登録」「フォロー」などといった情報機器上の操作でコミュニティのメンバーに加わることができる。『おたるくらし』FBページもその一つである。

 ほとんどすべてのバーチャルコミュニティに当てはまる、コミュニティを長続きさせる基本原則がいくつかあると思う。まず、情報発信を絶やさないことである。記事の質が多少落ちることになっても情報発信し続ける。

 次に、記事に対するネガティブなコメントや事実と異なるコメントが読者からあったときには、できるだけ早く対処する。『おたるくらし』FBページでは、そうしたコメントに対しては、できるだけ早く丁寧に返答し、他の読者から見えないようにしている。

 ここまではバーチャルコミュニティ全般に当てはまることと考えられる。さらに、観光促進を目的としたバーチャルコミュニティの場合には、ユーザに営利目的を感じさせないことが必須と筆者は考えている。ひとたび読者に店や商品の宣伝と感じさせると、読者が少しずついなくなるか、あるいは企業のFBページと同じような態度でこのFBページを読むようになるのではないか。そう感じている。

 『おたるくらし』FBページの記事が、特定の組織に肩入れしたものにならないよう掲出前にチェックしている。特に、特定の店の名前や商品名は記事の中に出さないようにしている。実際には、熱心な読者のコメントの中にたいてい店名や品名は出てしまうが、読者が指摘する場合には読者が宣伝とは感じないので問題がないと判断し、そのコメントを読めなくすることはしていない。

 ページへの「いいね!」を獲得し読者の数を増やし、バーチャルコミュニティを維持するため、年に2回、6月と2月中旬の雪まつり(北海道の各地で開かれる)前に、大学の予算を少しばかり使って『おたるくらし』FBページの広告を行っている。このFBページを知らないフェイスブックユーザーに向け、ページの存在を告知している。5万円の予算を使って1,000人を超える新たな読者を獲得できているため、費用対効果は高い方だと思う。

 もっとも、熱心な読者の方々が、頻繁に記事に「いいね!」やシェアをしてくれるので、それをきっかけに『おたるくらし』FBページを知った新しい読者が、ページに「いいね!」をしてくれることも多い。広告を打てば読者の数が大きく増えるが、何もしなくても少しずつ読者数が増えている。

FBページの記事を尽きさせないためにしていること

バーチャルコミュニティが地域に共感を呼び、観光を促進させる 『おたるくらし』プロジェクトの現在と未来
学生による投稿

 『おたるくらし』FBページ開始当時から、市民同士の強いつながりを利用して、市民から記事の書き手を探した。開始当時、市民ライターは8人いた。そのうち6人を小樽市保健所の所長に紹介していただいた。

 小樽に思い入れを持っていることと記事が書けることは別問題なので、『おたるくらし』FBページのライターを探すのは難しかった。地域(小樽)に思い入れがあり、文章が書け、良い写真も撮れる人となると、もともと潜在人口が少ない。当然、探すのに苦労した。

 新たに市民ライターを開拓している。1万人を超える読者に読んでもらえるようになってから、書きたいと自ら連絡してくれる方もいる。今後はFBページ上でライターを募集することも考えている。

 記事を継続して配信し続けるために役に立ったのは、小樽商大の学生に記事を書いてもらうことだった。『おたるくらし』FBページを始めてから2年後に、授業の中で演習の形で学生に書いてもらうようにした。こうすることで一定数記事を確保することができた。

 ただ、初めはこちらもかなり問題があった。学生がフェイスブックのような不特定多数に向けて情報発信する方法そのものを知らなかったからである。高校に「情報」の授業はあるが、今でもソーシャルメディアの使い方を教えることはほとんどないようである。そうした高校生が大学に来るので、大学生もソーシャルメディアの使い方を知らない。「ツイッターをメール代わりに使って友達とやり取りしていたら、突然知らない小樽商大の学生がツイートしてきて驚いた」と言うようなことを学生からよく聞く。また、2014年頃は、実名で不特定多数とやり取りをするフェイスブックよりも、匿名で不特定多数とやり取りをするミクシィを使っている学生が多く、ほとんどの学生が実名で不特定多数に情報発信することに不慣れだった。

 そうした事情から、授業の中で、Web上でのコミュニケーションのやり方、つまり一種のメディアリテラシー教育を学生に行い、その授業の中で演習として、学生に『おたるくらし』FBページに載せる記事を書いてもらうようにした。

 学生の書く記事は、市民ライターの書く記事に比べれば玉石混交で、良い記事もあれば、悪い記事もある。400字程度の記事を毎年書いてもらっているが、そこから良いものを選んで、FBページに載せるようにしている。

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