バーチャルコミュニティが地域に共感を呼び、観光を促進させる 『おたるくらし』プロジェクトの現在と未来

佐山公一小樽商科大学社会情報学科教授

2017.01.06北海道

観光地としての小樽の現状

バーチャルコミュニティが地域に共感を呼び、観光を促進させる 『おたるくらし』プロジェクトの現在と未来
ガス灯の明かりが石造りの倉庫や小樽運河をライトアップし、幻想的な雰囲気が楽しめる

 北海道の小樽は現在、国内外から年間800万人(うち国内観光客が536万人 平成27年度小樽市観光入込客数)が訪れる日本でも有数の観光地になっている。

 京都のような、海外の人がすぐに思い浮かぶ定番化した日本の観光地までにはなっていないが、海外の人、特に台湾や中国本土などの人からは“魅力”(魅力の内容には改善の余地があるが)のある街として認知されている。

 小樽は札幌に隣接しており、札幌から1時間以内で行くことができる。日本、海外を問わず都市の認知度から言えば、札幌の方が高いが、札幌に観光資源が少ないこともあって、たいていの人が札幌を訪れれば距離的に近い小樽に来る。

 観光地としての小樽が抱える一番の問題は、小樽が運河の街としてしか観光客に認知されていないことである。夜の小樽運河を定番の撮影スポットから映したのが左上の写真である。札幌経由で多くの観光客が小樽に来るが、小樽運河とその周りの狭い範囲を歩いても4、5時間で札幌に戻ってしまい、小樽に宿泊することはあまりない。

 もう一つ、筆者が考える大きな問題が小樽にはある。それは、運河地域と小樽市民の居住場所とが別々になっており、観光客と地元住民との間に接点がないことである。地元住民の生活を見に来ることで、観光客がリピーターになると筆者は考えている。ヨーロッパの中でも、例えば、イタリアのベネチアは、リピーターが多いことで知られているが、リピーターは、街(毎年一部が水没する)の路地裏を頻繁に訪れる。小樽にも、小樽にしかない、観光資源になりうる小樽市民の生活がある。

 観光客と地元住民との間に接点がないことは、日本の他の観光地にも見られる。歴史的建造物やテーマパークが観光地になっているようなところは多かれ少なかれこれに当てはまるであろう。しかし、歴史のある日本の観光地にも、観光客は訪れていないものの、観光客と地元住民が交流できるような場所が、実際にはたくさんある。小樽にも、(現在は地元住民向けの)市場や古くからあるお店がたくさんある。小樽だけでなく、おそらく日本の他の多くの観光地がこうした潜在的な観光資源を活かしきれていない。

小樽には確固としたリアルのコミュニティがある

 小樽は港町である。北海道開拓時には、開拓に必要な物資が小樽港に運ばれ、そこから北海道内各地に送られた。開拓が始まった明治初期の20年間は、小樽の方が札幌よりも人口が多かった。現在の小樽市民は、明治時代に彼らの祖父、祖母が小樽を作り、その小樽が北海道を作ったという街への強い思い入れがあり、ふるさとに対する意識が驚くほど強い。例えば、観光のボランティアを行おうとして、小樽市民の一人のところへ相談に行くと、その人のコネクションをたどって、次から次へとさまざまな観光ボランティア活動を行っている他の小樽市民と知り合いになれる。

 リアルなコミュニティのメンバー同士に強いつながりがあるだけでなく、メンバーが自主的にフェイスブックのバーチャルなコミュニティを作っている。  

 例えば『小樽の仲間たち』というFBページでは、800人以上の小樽市民同士が情報交換をしている。ユーザの多くは、すでにリアルなコミュニティで互いに顔見知りであるが、中には、純粋に小樽を住み良くしたい、小樽の観光を発展させたいという思いだけで、知り合いがいないにもかかわらずメンバーになっている人もいる。筆者が所属する小樽商科大学の教職員にもメンバーがいる。バーチャルなコミュニティで(観光振興という)明確な目的意識を共有している場合であると、バーチャルなコミュニティで知り合った人がリアルでも知り合いになる可能性が高くなる。もちろん行政(小樽市や北海道)もトップダウン的に観光施策を行い観光振興を行ってもいるが、それに加えて、多くの市民がボトムアップ的に自ら買って出て観光ボランティアをするような状況が小樽にはある。

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