観光業界の最前線を反映、ツーリズムEXPOジャパン2016

2016.11.18

「ガストロノミーツーリズム」で地域を元気に 

 「ガストロノミーツーリズム」も今回のキーワードの一つだ。ガストロノミーツーリズムとは、地域に根差した食の魅力に触れることそのものを主目的としたツーリズムのことである。欧米を中心に世界の多くの国で取り組まれ、地域社会の持続手可能な発展、雇用の促進を果たす上で重要な役割を担う。

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ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構設立記者会見

 23日には「「一般社団法人ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」設立記者会見が行われた。この機構は「温泉(ONSEN)」と「食(酒を含む)」を、その土地固有の地域の魅力と共に「ウォーキング」等を通じて体感する事業を実施するものである。会長である東京都市大学の涌井史郎教授は「日本では自然に接し、食文化に接することによるストレスマネジメントが歴史的に培われてきた」と述べ、この事業の可能性を指摘した。
 7市町が設立に参加している。参加自治体は毎年必ず1回以上、温泉地を起点として周辺の自然・歴史を歩き、地域の食を楽しむガストロノミーウォーキングイベントを実施することになっている。11月19日にキックオフイベントとして、大分県別府市で「ONSEN・ガストロノミーウォーキング IN 別府」が開催されることも発表された。別府の海岸線を歩きながら、資料館や砂湯などの見学で地域の自然や歴史に触れ、途中のポイントでざぼんサイダーや地獄蒸したまごなどを味わい、ゴール後には酒類の試飲もできるものだ。

  また同日には「ガストロノミーツーリズムで地域を元気に」をテーマとした国内観光シンポジウムも開かれた。 まず国連世界観光機関(UNWTO)アフィリエイトメンバー部門長のヨランダ・ぺルドモ氏による基調講演が行われた。UNWTOでは早くからガストロノミーツーリズムの重要性に着目して、その普及に向けた国際会議やネットワーキングを推進し、パイロットプロジェクトを通じて得られた知見を体系化、発信している。講演ではツーリストの指向や社会の変化がガストロノミーツーリズムに合致してきたこと、ガストロノミーツーリズムを通じて地域の魅力を体験する際に必要なことなどが述べられた。

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多くの人が聴講に訪れたパネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、モデレーターである株式会社ANA総合研究所代表取締役副社長の小川正人氏のもと、5名のパネリストが登壇した。
 まず、ぐるなび株式会社代表取締役社長の久保征一郎氏からは、日本の食文化を守り続ける企業使命のもと、地域の食や観光の魅力が人とモノを動かすことや、生産者や料理人を応援し食材にも光を当てる取り組みが紹介された。
  新潟市長の篠田昭氏は、新潟での取り組みや、食と農と文化をいかに融合させて人と地域と世界をつなぐのかについて語った。農家の人に光を当て、意欲ある料理人をつないで食文化を発信するピースキッチン運動なども紹介された。
 次に「ミシュラン」星付き旅館「浅田屋」を金沢で経営する株式会社浅田屋代表取締役社長の浅田久太氏より、金沢の料理人と海外の料理人との交流が紹介された。金沢ではレストランガイドで高評価のニューヨークの気鋭のシェフたちとの交流を有志の手弁当で行い、「日本料理を学ぶなら金沢で」という流れを作ることで金沢の知名度が上がり、日本食の地位向上につながると語った。
 佐賀県鹿島市にある冨久千代酒造社長兼杜氏の飯盛直喜氏からは、酒蔵ツーリズムで人口3万人のまちに1日で3万人の観光客が訪れたことが、地域に驚きと元気、自信を与えていることや、食や有田焼などの焼物、旅館などの分野とも広域で連携するストーリーを語った。
 意見交換の最後にぺルドモ氏は、日本のガストロノミーツーリズムには成功の要素がそろっており、課題はコミュニケーションや情報発信、ステークホルダーとともにバリューチェーンを確立することだと総括した。

新たなステージへ

 「ホップ・ステップ・ジャンプ」の「ジャンプ」の年にあたる開催3年目の今年は、スポーツ庁、文化庁および観光庁の連携プロジェクトとして、日本観光振興協会、日本旅行業協会、日本政府観光局(JNTO)を加えた6組織が展開する「ジャパン・トラベル・マンス」の幕開けとなるイベントに位置付けられた。主催者記者会見では、来年以降の新たなステージに向け、来年は日本政府観光局を加えた三者によるイベントに発展させる方向で協議が進んでいること、2019~2020年は東京以外での開催が検討されていることも発表された。

 3年目を迎えたツーリズムEXPOジャパン。今後もさらに年ごとの特徴を色濃くし、その時々の観光業界の最先端の状況を反映したものとなっていくようだ。

(取材・文/青木 遥)

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