おとな旅・神戸の魅力 DMOが取り組むべき着地型観光の要点を探る

高橋一夫近畿大学経営学部教授

2016.11.10兵庫県

おとなの楽しみ方やこだわりを熟知したプログラム

(2)第1回「おとな旅・神戸」の開催内容

 第1回「おとな旅・神戸」では、50名を超える市民アドバイザー(注1の協力を得て、2014年1月18日~3月27日の期間で53のプログラム(70本)が実施された。
 プログラムの企画にあたっては、ライターや専門家、料理人、店のオーナー等、神戸のまちの魅力やおとなの楽しみ方を熟知しているメンバーが市民アドバイザーとなり、アドバイスと協力を得て、「お客様目線」のこだわりのプログラムが考え出されていった。また、価格設定において、事業の持続的展開を図ろうとすれば、赤字の出るプログラムを実施することはできない。少なくともそのプログラムにかかるコストは受益者負担の考え方を徹底して、商品価格が決められた。

 その中の1つ、「ナチュラルな神戸のくらし~チェック&ストライプの特別なワークショップ~」という商品では、8,500円という価格で商品を販売した。その内容のこだわりが人気を呼び、販売開始数日で完売となった。

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人気の雑貨ショップ「チェック&ストライプ」によるプログラム 

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在田佳代子(ありた・かよこ)さんは、兵庫県西脇市で生産された生地の販売を1992年よりスタート。2006年に神戸で「チェック&ストライプ」を立ち上げた

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 他にも「神戸エレガンス。マキシンの帽子の世界へ」という商品では、1970年の大阪万博(EXPO’70)でコンパニオンの帽子を提供したり、大手航空会社のスチュワーデス(当時の呼び方)に帽子を提供したりしていた現代の名工の一人である山口巌さん(当時、現在は退職)による帽子を中心に、お気に入りのファッションをコーディネートしてもらうという内容だ。

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創業1940年、レディースハットをプロデュースする帽子専門店「マキシン」をテーマにしたプログラム (出典:2013年度「おとな旅・神戸」公式サイトより)

 この商品は4,500円で販売され、定員6人分が販売当日にあっという間に売れた。商品の催行当日は、神戸ブランドの隠れた物語を知りたい女性が参加し、大阪万博(EXPO’70)のタイムカプセルに入っているものと同じ型の可愛らしいフェルトの帽子をはじめ、さまざまな帽子をかぶって自分の洋服に合わせていた。

 店頭で試着する時間も終わり頃になって、参加者の女性が店頭一番奥のガラスショーケースに入った高級な帽子を指さし試着を望まれた。女性はその帽子を気に入り、金額を確認したところ、たいそうな金額にもかかわらず驚く様子も無かった。女性はその金額に見合う現金を持ち合わせていなかったため、後日取りに来るということで、取り置きを店に依頼したとのことである。

 筆者はこの話を聞いたとき、観光の裾野が広がったという思いを持った。元々、自分(自社)が観光事業者かどうかは主観的なものである。顧客が地元住民だけでなく、「おとな旅・神戸」等の観光商品で訪れる「観光客」を迎え入れ、観光を介して顧客が生まれたとき、事業者は観光との関わりを強く意識する。
 また、航空会社においては、ビジネス客向けにファーストクラスやビジネスクラスを販売している担当者は「航空輸送業」としての意識が高く、旅行会社のパッケージツアーにエコノミークラスを卸している担当者は「観光関連産業」としての意識が高いという話を聞いた。

 そもそも総務省の日本標準産業分類には「観光業」という分類はない。宿泊業、陸上輸送業などの分類にある事業者が、観光による集客を意識した時に観光(関連)事業者になるのである。「おとな旅・神戸」は農商工事業者や地域コミュニティに観光による価値をもたらしたと言えるだろう。

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